Count 20 【ウロボロスの烈女】円東寺加護女

 巫子芝たちが塔を出たあと、オレは導路盤から【きみなぐ!】の管理者変更に取りかかった。書き換えは30分とかからないだろうが、そこからスタンバイ状態を維持しながら母さんの到着を待つことになる。このロスタイムがどれくらいなのか読めないのが痛手だ。その間にオレは円東寺加護女と【筺庭ハコニワ】の歴史を再履修おさらいしてみる。


 そもそも【きみなぐ!】はオプション機能で、元々は調停者バランサーとして活動する魔法使いのためのキャンプツール、【筺庭】なのだ。言ってみれば【きみなぐ!】は遊園地に偽装した基地で、アトラクションの着ぐるみショーの中身がバリバリの軍人といった感じだろうか。

 オレが【きみなぐ!】の管理者になると、調停者バランサーとして世界の安定に貢献する義務を課せられるというのもそのためだ。


 そして天竜海竜は【筺庭】での対象鎮圧や悪用防止、そして【救済】のために母さんが昔使っていたものらしい。そしてあいつらの仕様は、当時軍隊を相手にすることも想定していたため、無駄にオーバースペックになっているようだ。それでも銃火器の装備がないのはせめてもの救いだな。

 初期の【筺庭】は機能も少なく、やむを得ず廃棄処分【救済】を決断する場合もあったらしい。しかし後にバックアップと識別エディット、アンドゥ機能などが装備されたことで【救済】は無用の存在となり、あいつらも全数廃棄された……はずだった。


 この【筺庭】は円東寺加護女のオリジナル魔法だ。本人はふざけて『異世界ツクール』などと言うが、【筺庭】はそれまで数人がかりで発動していた結界魔法と封印魔法を統合し、加えて魔法空間を自由に作ることができるという画期的な発明・・だ。それにより母さんは【ウロボロスの烈女】と呼ばれた。


 だがその発明は、【祐久戸ユグド】の他の魔法使いの妬みを買い、魔法院に居座る老害【琿虹】どものプライドを逆なでした。

 円東寺加護女の能力を認めたくない【琿虹】は彼女を危険視し、央都の貴族連中は庇護するふりをしながら迫害し、【筺庭】を奪搾しようとした。まあ、全て返り討ちにしたらしいが。


 オレが言うまでもなく、ゲームである【きみなぐ!】の中で語られる魔王、天才魔法使いユビキタスのモデルは円東寺加護女だ。そして天才ゆえに孤独で人間に絶望したユビキタスと同じく、母さんもまた汚名を着せられた過去がある。


 あるとき、国の王族を人質にしたリゾート島占拠事件が起こる。

 調停者バランサーの働きにより無事王族は救出されたが、犯人は最後に凶悪なバイオテロを敢行した。

 汚染の危機に世界がさらされる中、円東寺加護女は100km四方にも及ぶ巨大な【筺庭】を作りだし、島ごとそこに閉じ込めてみせる。

 これにより拡散は防げたが、その後の対応は遅々として進まず、閉じ込められた人の使者の数は日ごとに増していく。

 魔力供給も限界がくる中、魔法院が【救済】を指示し、事件は多くの犠牲を払って終わった。

 しかし事件後に、その対応のまずさで突き上げをくらった魔法院は、悪いのは円東寺加護女と責任を丸投げして逃げた。そして【ウロボロスの烈女】は悪名になった。


 円東寺加護女は【琿虹】に扇動された暴徒に屋敷をとり囲まれ、【筺庭】の魔法院への完全譲渡(意:守って欲しければ子飼になってタダで死ぬまで筺庭を作れ)を迫られることになるのだが、彼女は【筺庭】の見本を置いてあっけらかんと姿を消した。

 欲しかったら同じものを自分で作ればいいだけでしょ? という円東寺加護女の挑発に魔法院はやっきになったが、結局は粗悪なものしか作れず、本来最終手段であるはずの【救済】を濫発したせいで魔法院の評判はだだ下がりした。


 事件から3年後、円東寺加護女は【祐久戸ユグド】に帰ってくる。

 フリーの始末屋スイーパーとなり、様々な人脈パイプを持つに至った彼女に、もはや手を出せる人間はいなかった。

 しかしユビキタスと違い、円東寺加護女は復讐や断絶よりも人々に歩み寄ることを選んだ。麒麟人との結婚を受け入れ、粗悪品を駆逐し、改良した【筐庭】を調停者バランサーに提供した。当然対価は取ったが。

 そして今や【筺庭】は調停者バランサーの仕事に欠かせないものとなり、今では災害時の避難所、隠居した魔法使いの終の住処、果てはレジャーやイベント施設に至るまで、多方面に利用されている。


 そして【きみなぐ!】で親子三人の暮らしが始まって、そこからさらに波瀾万丈、紆余曲折の末に今につながるわけなんだが……これ、改めて考えると人生ハードモードはもう血筋のせいなんじゃないのか?

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