第24話 最高の寝具

 ベノム・ドラゴンを倒した後で元の場所に戻ると、運んでいたパープルスライムがまだ木の陰でプルプルしていた。

 なので、再びニーナちゃんの風の力で運び、今度は無事に街まで戻ってきた。

 それから王女様にお願いして、街の近くの綺麗な小川に木の檻を作ってパープルスライムを飼育させてもらい、毒消し草だけを与え続ける。

 時々ニーナちゃんも手伝ってくれて、二人で数日の間、パープルスライムに綺麗な水と毒消し草を食べさせた結果、


「出来たっ! カレンさん、出来ましたよっ!」

「アルス、お疲れ様! 頑張ったわね!」


 全く臭くなく、かつパープルスライムの弾力性を維持した素材が出来た!

 これを、パープルスライムを飼育している間に入手した、山羊の毛で作った袋の中へ。

 この山羊の毛は、カレンさんが言っていたカシミヤ……というものではないらしいけど、手触りは似ているという話だ。


「では、早速試させてもらうよ」

「はいっ! お願いします!」


 僕の作ったカレンさん仕様の最高の枕をベッドに置き、カレンさんが頭を乗せる。

 ゆっくりとカレンさんが目を閉じたので、成功! と思ったのだけど、


「うーん……悪くはない。悪くはないんだ。けど、九十点かな」

「ひゃ、百点ではないんですね。えっと、熟睡は出来そうですか?」

「いや、十点足りないからね。まぁ眠る事は出来るけど」

「そ、そうですか」


 これは……合格なのかな?

 この数日間、またバフォメットが魔物と共に攻めて来たし、更に他の大陸からも魔物が来るみたいだし、何とかしなきゃならないんだけど……。


「まぁまぁ、アルス君。待ってくれたまえ。あとの十点を埋める方法はわかっているんだ」

「え? そうなんですか!? 一体どうやって……」

「うむ。教えてあげるから、ちょっとこっちへ来てごらん」


 枕の性能を上げる方法とは一体何だろうと思いながらベッドで横になるカレンさんに近付くと、


「よっ」

「か、カレンさ……んっ!」

「ふっふっふ。この前のベノム・ドラゴンを倒した時の事を覚えているかな? 枕だけで不足ならば、最高の抱き枕を合わせれば良いんだよ」


 突然抱きかかえられ、ベッドの上に寝かされてしまった。

 そのままカレンさんが僕を抱きしめ……僕の顔がカレンさんの胸に埋められる。


「うむ。これだ……これなら残りの十点を上回る効果があって、百八十点だ! ……という訳で、おやすみ」

「カレンさん!? カレンさーんっ!?」


 今から寝ちゃうのっ!? いや、確かに朝も魔物退治に出かけられてましたけど。


「ふーん。前にアルスの膝枕で寝ちゃったけど、抱き枕も効果があるんだ。じゃあ、ニーナも試させてもらおうかな」

「えっ!? ニーナちゃんまでっ!?」


 視界がカレンさんの胸で覆われているから見えないけど、背後からニーナちゃんが抱きしめてきて……えっ!? 寝息を立てている!?

 二人に挟まれて全く身動きが出来なくなってしまったところで、お店の扉が開く音が聞こえてきた。


「アルスさん。カレンの枕は……あらあら。あらあらあら。アレンさん、流石ねー。熟睡しているカレンを見るのは久しぶりだわー」


 その声は王女様!?

 いやでも、動けないっ!


「その様子だと、カレンが大丈夫そうだから、この国も大丈夫そうね。残りの成功報酬をカウンターに置いておくけど……ちょっと不用心ね。これがお店の鍵? 鍵を外から掛けた後、隙間からお店の中に入れておくから、安心して眠ってねー」


 えっ!? 王女様!?

 カチャっと扉に鍵を掛ける音と、何かが床に落ちる音が聞こえ……いやあの、確かにカレンさんが熟睡できるなら、バフォメットにも勝てると思いますけど、僕が毎晩抱き枕になるって事ですか!?

 一応、当初の目的は達したのかもしれないけど、次は抱き枕……最高の抱き枕を作るんだぁぁぁっ!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最高の睡眠を求める浪漫寝具職人。国を救った女勇者が魔王の呪いで不眠症になったので、ショタ好き勇者と無垢な少女に迫られながら、究極の枕を求める。 向原 行人 @parato

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画