第23話 勇者の力

 カレンさんが馬の上で僕を抱きしめると、


「……すぅ」


 寝たっ!?

 いや、それだけ眠かったっていう事だと思うんだけど、こんな状況で熟睡出来るの!?

 ただ、馬から落ちる! ……と思ったら、ニーナの風の力のおかげなのか、優しく支えられて元の位置に戻る。

 だけど、眠るカレンさんを他所に、後ろからドラゴンが迫って来た!


「――っ!」

「……静かに。アルスはカレンさんを起こさないように、ジッとしてて。ニーナが何とかする」


 ニーナちゃんが小声でそう言うと、手綱を操って馬を走らせる。


「……ニーナちゃん、馬を走らせられるの?」

「え? わかんないけど、勝手に走ってくれてる」


 ……って、それって馬がドラゴンから逃げてるだけだよね!?

 街や村に向かって行っちゃったらマズいでしょ!

 とはいえ、今の僕にはどうする事も出来ない。

 ……いや、カレンさんは僕を抱きしめて眠っているけど、僕の胸に顔を埋めているから、両手は使える。

 手綱の使い方はわからないけど、ブリッジみたいな状態で何とか前は見えるので、馬の首を優しくペシペシ叩いて、走る方向を……変えてくれた!

 よし! これで街や村には向かっていかないようにして、五分間この当たりをグルグル回れば……


「えいっ! もっと早く!」


 って、ニーナちゃん!? 今、馬のお尻を叩いた!?

 加速したら……ゆ、揺れがっ! ニーナちゃんの風の力で落馬はしなにしても、揺れが激しいとカレンさんが起きちゃうよっ!


「ん……」


 案の定、カレンさんが少し動き、変な位置にカレンさんの顔が……く、くすぐったい!

 けど、我慢だ! 今は絶対にカレンさんを起こしてはいけない。

 それから、馬のコントロールを……って、前方に村がある!?

 あの村に向かわないように、向きを変えないと!


「ダメっ! こっち……こっちよ!」


 ニーナちゃんも僕と同じ事を思っているみたいだけど……どうして馬のお尻を叩くの!?

 それじゃあ、馬が加速して……村に向かって突撃してるっ!

 ダメだっ! 村にドラゴンなんて連れて行ったら、大惨事にっちゃう!

 向きを……お願いだから、向きを変えてっ!

 ペシペシと馬の首を叩いてみるけど、全く方向を変えずに村へ向かって爆走する。


――GYAAAAA


 もちろん、ドラゴンも僕たちを見逃すつもりはないようで、あとをついて来ている。

 あの村が無人の廃村だったら……とも思ったけど、村の中で遊んでいる子供が見えた。


「お願いっ! そっちに走らないで!」


 思わず叫びながら馬の向きを変えようとしたけれど、向きは変わらずに馬が村の入口へ。

 どうしよう! 何とかして村の人たちを逃がさないと!

 そう思った直後、突然身体が軽くなる。


「はっはっは。アルス君の枕は最高だったよ。あとはお姉ちゃんに任せなさい!」

「カレンさん!」


 スッキリした顔で目覚めたカレンさんが馬から飛び降りた。


「はぁっ!」

「カレン様! ニーナも参りますっ!」


 ニーナちゃんも風の力を使って馬から降り……って、僕は!? とりあえず、止まってよー!

 僕を乗せたまま馬が村を突っ切り、後ろからドラゴンが追って来ないからか、ようやく止まる。

 僕は馬を走らせる事なんて出来ないので、一旦降りて手綱を取り、ちょっと嫌そうにしている馬を村の反対側へ連れて行くと、


「ふっ……本気を出す事が出来れば、この程度の魔物は大した事がないよ」

「流石カレン様ですっ!」


 戻った時には、二人によってドラゴンが倒されていた。

 もちろん村人に怪我人なども出ておらず、ニーナちゃんが風の力で毒のブレスを防いでいたので、村には何の影響もないようだ。

 ……よかった。本当によかったよ。

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