第21話 試行錯誤

「毒気し草で臭いの元から消すのはアリだと思ったんだけどなー」


 ニーナちゃんがパープルスライムを炙り、とんでもない悪臭が充満していたけど、風の精霊のおかけでようやく元の状態に戻った。


「とりあえず、スライムに火の魔法を使う時は、中途半端に炙ったりせずに、溶けるまで燃やし尽くさないとダメだと知ったわ」

「でも、料理の手法が臭い消しに使える気がするんだよね。カレンさん、他に何か臭い消しの方法を知りませんか?」

「んー、そうだねー……」


 少し考えたカレンさんが、いろんな手法を教えてくれた。

 魚を青い竹に入れて焼いたり、お肉をハチミツに漬け込んだり、香草と一緒に煮込んだり……うん、美味しそう。

 だけど、火を使うのはさっきの二の舞になりそうだし、ハチミツはベタベタしちゃうよね。

 何か、もっと根本的に違う方法を……


「あっ! いや、でも……」

「アルス? どうしたの?」

「ちょっと思いついた方法があるんだけど……うーん。ちょっと危険かなって。それに確証もないし」

「確証はなくても、思いついたのなら試してみれば?」


 本当にただの思いつきなんだけど、ニーナちゃんに後押しされたので、やってみる事にした。


「カレンさん。ニーナちゃん。一つお願いがあるんだ」


 二人に頼み込み、カレンさんに馬へ乗せてもらい、その後ろをニーナちゃんが風の精霊の力で飛んでくる。

 ……空が飛べるのは羨ましいかも。

 そんな事を考えながら、前に来たパープルスライムの群生地である毒の沼へ到着した。


「アルス。こんな所で何をするの? パープルスライムの死骸なら、お店にあるでしょ?」

「ちょっと試したい事があって……ニーナちゃん。パープルスライムを生捕りって出来ないかな?」

「生捕り!? まぁこの大魔法使いのニーナにかかれば余裕だけどね。……けど、本当にどうするのよ」

「お昼にカレンさんが言っていた、食べ物から厳選してお肉を美味しくするって話があったでしょ? だから、毒消し草と綺麗な水だけを与えてみようかなって思って」


 いや、カレンさんが話していたのは食べ物の話だっていうのはわかっているんだけど、似たようなものだと思うんだ。


「まぁカレン様の為になるのなら……えいっ!」


 ニーナちゃんが沼の近くにいた一体のスライムを風の力で浮かせ……よし。あとは帰るだけだね。


「何となく風の精霊が顔を顰めている気がするわ」

「えっと……精霊さん、ごめんなさい」

「いえ、何となくだから謝らなくても大丈夫よ。それより、私はこのスライムを運ぶ制御をしていて、飛べないのよ。馬に乗せてもらっても大丈夫?」

「それなら僕が歩くよ」


 ……と言って馬から降りようとしたのだけど、ニーナちゃんが小さいから大丈夫だと言って、僕の前にヒョイっとニーナちゃんを座らせる。


「う、馬の上って高いのね……アルス。ニーナが落ちないように、しっかり抱きしめてよねっ!」

「……空を飛んでいる時はもっと高いよね?」

「空を飛んでいる時は自分で制御できるでしょ。今は出来ないから言ってるのよ」


 という訳で、カレンさんが三人乗りの状態で馬を走らせ、その少し上を宙に浮いたパープルスライムが付かず離れずで追いかけてくる。

 そんな状態で暫く走っていると、カレンさんがポツリと呟く。


「むっ!? 後ろから何かがやってくるな」


 何かと思って後ろを……カレンさんの胸に挟まれて動けないので、ニーナちゃんに見てもらう。


「特に何も……違うっ! あれは……ど、ドラゴン!? どうして、こんな所にっ!? 近くには村もあるのにっ!」

「おそらく、あのスライムの臭いに釣られて来たのだろう。こいつは普通のドラゴンではない。ベノム・ドラゴン……毒を撒き散らすドラゴンだ」


 バフォメットの影響なのか、こんな所には絶対にいなかった魔物が現れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る