第20話 大惨事

「うぅ……ダメだぁぁぁっ!」


 カレンさんとニーナちゃんが店を出ていった後、一人でパープルスライムの臭い消しの方法を考えているけど、上手くいかない。

 というか、二人の事が気になって手が付かないといった方が良いのかも。

 僕が魔物の前に行った所で何も出来ないと、頭では分かっているのに落ち着かない。

 どうしたものかとソワソワしていると、


「アルス君。戻ったぞ」

「アルス、ただいまー!」


 カレンさんとニーナちゃんが帰ってきた。


「二人共、おかえりなさい! 大丈夫でしたか?」

「ふふっ、心配無用だ。ニーナ君のおかげで、快勝だったよ」

「えへへ。カレン様のお役に立てて良かったですー!」


 良かった。二人共無事というか、怪我一つしていないみたいだ。


「だが、やはり昨日少し寝つきが悪かったのかもな。少々眠たいんだ」

「あっ。枕はもう少し待って欲しくて……」

「いや、構わないよ。それより、昼食にしようじゃないか。アルス君も枕作りを頑張ってくれていた訳だし、今日は私が御馳走しよう」

「あの、僕は大丈夫です。まだ枕も完成していませんし……」

「何を遠慮しているのさ。私とアルス君の中じゃないか。さぁおいで」


 手が付かずに枕が全然進んでいないので、食事を断ろうとしたんだけど、カレンさんに腕を組まれ……うん。全く逃げる事が出来ずに、高そうなご飯屋さんへ。

 よく分からないけど、ガチョウという鳥料理のお店らしい。

 美味しい料理が少しずつ出てきて、舌鼓を打っていると、メインの鳥料理の前に、お魚の料理が出てきた。


「見た事が無い草が乗っていますね」

「これはハーブだね。魚の臭みを消すんだ。私の故郷では、ハーブの代わりに梅干し……木の実を入れるんだ」

「へぇー……ハーブや木の実で臭い消しですか」


 これは、パープルスライムに応用出来るないだろうか。

 今まで臭いを封じ込める事ばかり考えていたけれど、臭いを消すという発想はなかった。

 ……そういえば、毒消し草もハーブの一種だし、パープルスライムは毒の沼に棲息しているし、いけるのでは!?

 それから、魚を美味しくいただくと、メインディッシュのガチョウ料理が運ばれてきた。


「これも、凄く美味しいです!」

「ガチョウといえば、私の故郷では、わざとガチョウを太らせ、その肝を食べたりするんだよ」

「へぇー、そんな事を……」

「うん。食べ物に凄くこだわる国でね。ガチョウだけでなく、牛でも魚でも、その飼料から拘り抜いていてね」


 カレンさん曰く、牛さんにお酒を飲ませたり、魚に果物を与えたりして、美味しいお肉にするらしい。

 カレンさんも枕に凄く拘るし、そういう拘りが強い国民性なのかな?

 とまぁ、それはさておき、ハーブで匂いを消すというヒントを貰ったし、二人も無事に戻って来た事なので、毒消し草を沢山買って、早速お店に戻る。


「アルス。スライムの入った袋に毒消し草を入れてどうするの?」

「うん。さっきの料理で魚の臭い消しにハーブを使っているという話だったから、これで臭いが消せないかなって思って」

「なるほど。上手くいくと良いわね」


 興味津々なニーナちゃんと共に暫く待って、毒消し草を詰め込んだパープルスライムを嗅いでみると……うん。ダメだ。毒の沼の匂いが全然消えてない。


「んー、さっきの料理は火を通していたし、スライムも炙ってみたら? ニーナがやってあげようか?」

「出来るの?」

「うん。師匠はエルフだから、風や水の精霊を得意としていて、代わりに火や土の精霊が不得手だったけど、ニーナは特に苦手な精霊ってないからね」


 という訳で、床にパープルスライムを置くと、ニーナちゃんが火の精霊の力でパープルスライムを軽く炙る。

 すると、パープルスライムの毒の沼臭さが……一層増して、お店の中に充満した!


「あ、アルス君!? この臭いは一体……」

「ニーナちゃん、ストップ! 窓とドアを開けるから、ニーナちゃんは風の魔法を!」

「うげぇー……炙ったら、臭みが増したぁぁぁっ!」


 僕の毒消し草でパープルスライムの臭い消し作戦は失敗し、ニーナちゃんの炙り作戦で大惨事になってしまった。

 うーん。どうすれば良いのだろう?

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