第17話 もふもふ
「えーっと、見ての通りニーナちゃんは精霊魔法を使うの。精霊魔法はトリーシャの師匠から習っているらしいから、いわばトリーシャの妹弟子ってところね」
「ソフィア。トリーシャの……という事は、ニーナはエルフなのか?」
「いえ、違います。街中では目立つので帽子で隠しておりますが、兎耳族……要は獣人族です」
カレンさんの疑問に、ソフィアさんに代わってニーナちゃんが自ら答え、如何にも魔法使いですっていう大きな黒い帽子を取る。
帽子の下には、ニーナちゃんが言っていた通り、ウサギみたいな大きな耳が頭から生えていた。
「なるほど、獣人族か。懐かしい……魔王と戦う少し前に、猫耳族の村で休ませてもらったな。耳を少し触らせてもらっても良いか?」
「はい、もちろんです! どうぞカレン様」
そう言ってニーナちゃんが頭を下げ、カレンさんが優しく耳に触れる。
うわぁー……モフモフいいなー。
獣人族を見るのは初めてなので、どんな感触なのか触ってみたいと思っていると、僕の視線に気付いたのか、カレンさんが譲ってくれた。
「えっと、失礼しま……」
僕もウサギの耳を触らせてもらおうと思ったら、ニーナちゃんが頭を下げたままの姿勢で、僕の手をパシッと払う。
「はぁ? 獣人族にとって、耳は繊細で大事な器官! 例え子供でも、男が触って良いと思うな!」
「すまない、ニーナ。私がアルス君に触って良いと視線を送ってしまったんだ」
「カレンさんの許可を得ていらっしゃるのなら問題ございませんよ! ……チッ、ほら早く触りなよ」
えぇ……ニーナちゃんの態度がカレンさんと僕とで全然違うんだけど。
けど、ニーナちゃんのウサギの耳はモフモフで……あぁ、癒される。
……はっ! このモフモフを枕で再現出来ないだろうか。
「おい、少年。いくら私が可愛くて愛らしくて、愛おしいかもしれないが、触り過ぎだ」
「あ、ごめんね」
「む……アルス君も男の子なのか。年上のお姉さんよりも、年下の女の子の方が好みなのだな?」
いやあの、ニーナちゃんからは物凄く睨まれ、カレンさんからは変な勘違いをされ……あの、ニーナちゃんって、僕よりかなり幼いよね?
八歳とか九歳くらいに見えるんだけど……僕はもう十二歳で、子供じゃないんだからね!?
「と、とりあえず、ニーナちゃんは魔王を倒したカレンに憧れているみたいだし、さっきも風の精霊の力で空を飛んでいたでしょ? 魔法の腕はトリーシャが保証するって言っていたから……ひとまず、ニーナちゃんをカレンに預けるわね」
「うむ。承知した」
「ふふふ。兎耳族の誇りに懸け、勇者カレン様の支援をさせていただきます!」
ひとまず話が纏まったようで、王女様と護衛の騎士さんたちが帰っていった。
「カレン様。改めて、よろしくお願いいたします」
「突然の事で申し訳ない。こちらこそ、よろしく頼むよ」
「いえ。勇者カレン様のご支援が出来る事に喜びを感じているのは本当ですので、お気になさらないでください」
再び二人が挨拶を交わした所で、笑顔のニーナちゃんがジト目になり、その目が僕に向けられる。
「……で、君は誰なの? カレン様と一緒にいるけど」
「あ、僕はアルスっていうんだ。このお店……浪漫寝具店の店主だよ」
「ロマン寝具? どういう事?」
「えっと、これまでの事を簡単に説明するね」
ニーナちゃんはあくまでバフォメットなどの魔物と戦う為に呼ばれた訳で、僕の事は一切知らされていないみたいだ。
……まぁ、それはそうか。
寝具を作る事しか出来ず、戦闘では少しも役に立たないしね。
「……なるほど。カレン様が魔王との戦いで不眠症に」
「そうなんだ。我ながら、困った事になっていてね。今の所、アルス君の膝枕が一番眠れるんだけど、朝になるとその……まぁ仕方ないね」
「……? アルス。朝を迎えたら、カレン様に何をしているの!? ま、まさかチューとかしてないわよね!?」
いや、そんな事しないから。
というか、ある意味ではキスより酷いというか……せっかく思い出さないようにしていたのに。
「あっ! カレン様! でしたら、私の……ニーナの膝枕はいかがですか!? 是非ご利用ください」
僕よりも小柄なニーナちゃんが自らカレンさんに提言し、膝枕を試してみる事になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます