第16話 新たな課題

 パープルスライムの群生地を切り抜けた後は、カレンさんの目が覚め、毒消し薬も飲んで事なきを得た。

 それから、また馬でお店に戻り、早速パープルスライムを使って枕を作ってみる。

 あの群生地から抜け出すのは大変だったけど、今まで試したスライムの中では、弾力が最もあるので、いけるのではないだろうか。


「……カレンさん! これはどうでしょうか!? 僕としては、かなり良いと思うのですが」

「……」

「あれ? カレンさん? カレンさーん」


 僕史上、今までで一番良い感じの枕が出来たというのに、カレンさんが試してくれない……というか、返事もしてくれない。

 やはり、先程のパープルスライムの群生地で迷惑を掛けてしまったから、怒っているのだろうか。

 それとも、あまりにも眠くて、枕なしでも眠ってしまったとか?

 でも、僕に背中を向けてベッドに腰掛けているし、起きているよね?

 座ったまま眠っているという可能性も無くはないけど、もしもカレンさんが怒っているのなら、謝らないと。

 恐る恐るカレンさんの前に回り込むと、


「むー……」


 カレンさんが頬を大きく膨らませて僕を見つめてくる。

 うぅ、やっぱり怒っているんだ。

 改めてパープルスライムの群生地での事を謝ろうと思ったら、カレンさんがボソっと呟く。


「……お姉ちゃん」

「えっ!? カレンさん。今、何て……」

「カレンさんじゃなくて、お姉ちゃんって呼ぶの」

「えっと……カレンお姉ちゃん。さっきのパープルスライムを使って仮の枕を作ってみたから、試して欲しいな」

「うんっ!」


 えぇ……あのお姉ちゃんって呼ぶ話はまだ続いていたの!?

 てっきり、あの群生地を抜ける為だけの話だと思っていたのに。


「カレンお姉ちゃん。どうかな?」

「うん。弾力はかなり良いよ。だけど、ちょっと気になる事があるんだよね」

「気になる事っていうと?」

「うーん。パープルスライムは体内に毒を持っているからかな。変な匂いがするんだよね」

「匂い……ですか。なるほど。確かに嫌な匂いがしたら眠れませんよね」


 弾力については、可能性が見えてきた。

 代わりに、新たな問題が浮上して来たけど、実はこれについては何とかなるんじゃないかと思っている。

 というのも、今はお試し用の麻の袋にパープルスライムを詰めただけなので、この袋に匂いを閉じ込めるものを使えばよいんだ。

 とはいえ、どういう素材を使えば閉じ込められるのかは検討が必要だけど。


「匂いを閉じ込める袋……ポリ袋とかがあれば良いんだけどね」

「カレンお姉ちゃん。ポリ袋……って何?」

「あっ! 気にしないで。何かを袋状に出来れば良いのよね? ……魔物の胃袋とか、腸とかはどうかな?」

「えっ……カレンお姉ちゃん。結構、グロ……」

「う、うそっ! 今のは冗談なのよ。その、ソーセージっていうか、腸詰めみたいな食べ物もあるでしょ? それで、応用できないかなーなんて」

「……流石に腐っちゃうんじゃないかな?」


 くず肉の腸詰めっていう料理があるとは聞いた事があるけど、それを枕に使うのはどうなんだろう。

 その腸や胃袋自体の臭い消しをどうやるのか……お肉屋さんとかに聞けばわかるのかな?

 ちなみに、スライムはコアを破壊した後に、状態を維持する為の処理を行う必要がある。

 胃袋や腸も、同じ処理で良いのかな? ……スライム用の処理だけど。

 そんな事を考えていると、


「アルス君とカレンは居るかしら?」


 お店に王女様がやって来た。

 今回はこっそり来た訳ではないからか、大勢の騎士さんたちが一緒に居て……あ、お店に入り切れないからか、二人だけ残って外へ出て行ったけど、何人居るんだろ?

 窓の外まで取り囲んでいるから……少なくとも十人くらいはいそうだ。


「ソフィア。私の……こほん。アルス君に何か用かい?」

「カレン。今、私のアルス君って言いかけていなかった!? 変な事はしていないでしょうね!?」

「……はっはっは。何を言う。魔王を倒した勇者である私が、変な事をするはずないだろう」

「……少し間があったのが気になるけど、まぁいいわ。それより、紹介するわね。トリーシャに紹介してもらった、カレンの戦いを支援してくれる新たな仲間よ」


 そう言って、王女様が目を向け……誰もいないんだけど。


「あ、あら? 一緒に来たはずなのに……ニーナちゃん? ニーナちゃん!?」


 王女様が名前を呼ぶと、


「ふっふっふ。我が名は大魔法使いニーナ! 勇者カレン様のお供にしていただけると聞き、馳せ参じました。どうぞよろしくお願いいたします」


 天井から女の子が降りてきて、深々と頭を下げる。

 ……どうしよう。変な子が来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る