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「話さなかったわたしも、悪いのよ」


 由里子は熱湯をカップに注ぎ、


「……でも、べつに今は悪い病気とかじゃないし、検査で通院はしてるけれど、予後はおかげさまで良好だしで、まあ要するに、今日明日は平気だから。とにかく安心して」


 と、笑顔を見せた。


 夏目は破顔し、悲しいのか嬉しいのか分からないような笑顔で、うつむいたまま流れる涙をタオルでぬぐった。


「ざッス……」


 

 その彼の前にカップをひとつすすめて、


「いいじゃない。想像力豊かで。ネット小説でもかいたら人気者になれそうだよ」と、由里子は自分の手も馴染んだ赤いマグカップのぬくもりにあたためた。


 その香気に、ようやく濡れた顔をあげた彼へとティッシュを渡し、


「じゃここで、クイズをひとつ」


 その指をつかって、壁に吊るした自分のフォーマルスーツをさし、


「……あれ、なんだかわかる?」


「えと、……喪服?」


「正解。では今日は、第何週の木曜日でしょうか?」




「……三週の木曜日…… え?!通院??!!」


 由里子は、笑いを抑えられなくなった。


「ホントに、サクラもキミもおバカさんね。今日も月命日で湘南に行ってたの」


 そう言い、自分もティッシュで目頭を押さえ、


「喪服で通院とか、婦長さんにつまみ出されちゃうよ……」


 可笑しそうに笑った。


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