人狼

21

「こう見ると広い町ですね」


 興奮さめやらぬ由里子を乗せ、村落ふもとを一望する丁字路に、車椅子はとまった。


 ここで、小中学校の敷地を分割するフェンスの間にある道が、左右に分岐する。


 右には、ゆるやかなアスファルトの下り坂が駅まで続き、そして市内へとむかう。


 左の坂は、コンクリートの急勾配が下りながら、暗い森のなかに消えている。





「戦後、この山をかこむ三つの村がひとつに合併したんだ。だからみっつの里で、三里町みさとちょう


 その折に新町は、三つの旧村役場からほぼ等距離となるこの山の頂上台地に、小中学校を新設し統合した。


 それが現在いまに至り、この少子化の時代、不登校事由や身体障がいをもつ児童生徒の山村留学と介護人材の育成を両輪とする新たな経営計画のため、バリアフリー化改修を校舎にくわえている。


 だが、この両方の坂道は、ここに校舎を置く以上は変えようがない。



「まぁ。山村留学の受け入れが本格化したら、送迎バスをだすらしいけどな」


 しかし二年後、ここにいない由里子には、そのバスは間にあわない。






「……そう言えば」


 了一が、彼女にきいた。


「今朝はどうしたんだ? クルマかい?」


「いえ。父がここを押してくれました」


 と、彼女が右のなだらかな長い坂をとおして、自宅のある方を見た。



 そう言えば聞いていないことだらけだった。


「……家は中町って言ったけな。ここから見えるかい?」


「うん。あの、お地蔵さんのある交差点のとこ……」


 と彼女は、遠い交差点をゆびでさした。


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