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 ひかりは微笑んで、心底そう思っているよと前置をきしてから言った。


了一りょーちゃんこそ偉いよ。他人任せにせず、みずから居残りしてまで転入生の学校案内なんて」


 外で歓声があがる。グラウンドでナイスプレーがあった様子だ。それを横目に了一は言った。


「そりゃあ、俺が帰宅部だからさ」


 ひかりもグラウンドを見た。


「はいったらいいじゃん。野球、得意だったらしいじゃん。小学校のとき」


 彼は細い目で微笑んだ。


「足だけはな。でも今はアイツらのほうがうまいよ。野球自体はね」


 グラウンドにはもう、彼らの居場所とポジションがある。有名校のスポーツ推薦を狙うものもいる。





「だいたい、男子の部活が野球部いっこしかないのがよくないのよね」


 ひかりは口を尖らせた。


「でも高等部には陸上部があるらしいじゃん。その時にまたかんがえたらいいよね」


 そう言うと、ひかりは尻尾をふる犬のように次に出てくる言葉を楽しみに待った。


 しかし彼は、「いかないかな」とのみ答えた。



 彼女は、始めそれを冗談の導入部かと思った。


 それでもいつまでも了一がそのまま続きを言わずにいるものだから、「……嘘でしょ」としか、彼女は言えなくなった。



 グラウンドでは、逆転の好機に、三里山中側が湧き立っている。


 了一は、


「おじさんとこで働くよ。あの人もそろそろ若い職人が欲しいだろうし」


 と、学費の問題こそ口にしなかったが、力なく微笑んで言った。



「そうなんだ」


 彼女は、心が痛むようだった。


「でも、了一りょーちゃん教員になりたいんでしょ? だったら大学にいかなくちゃ」


 珍しくしつこいひかりに、彼は、ほそい目を閉じて小さく首を振った。









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