第二章 黄金時代

青い稲妻

9

 それが、欅田けやきた 了一りょういちの初恋だった。








「また学年四位だったんだが、オマエさんこれなのか?」


 そのクラス会があった前日、担任のオカモトは、了一とその祖母タケを前に、三者面談の席で言った。


 期末テストの結果表が彼らの間にある。


「ええ。まあ、偶然というか、これが限界なんでしょう」


 オカモトから見て、了一は冷静だった。糸のように細い目の動きにも、嘘がない。オカモトは腕組みををして、この三里村みさとむらを支配する百年一日のパワーバランスについては黙ったまま、


「……こういうのもなんだがな。もう木崎ボスに遠慮する必要はないんじゃないか?」


 了一を刺激してみた。


 だが了一の目は、細いまま反応をしめさなかった。


 何か思慮があってのことなのだろう。心を真ん中において、構えを崩さない。


「していません。上位三位の特進予定者も同じように頑張っている、その結果だと思います」


 その傍で祖母のタケも、彼の善性をうたがわない様子であって、


「まったく。器用なヤツだな、オマエさんは」


 降参だとばかりに、オカモトは頭を搔いた。



 そして深呼吸を挟み、


「それはまあ、ソレとしてだ」


 来週、2年B組に、《また》ひとり新しい生徒がくるんだがと、母親の介護でおそらくは車椅子の介助に慣れている了一に、


「女子で、車椅子を使用する編入生にとって、いまのB組なら席はどこがいいと思う?」




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