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そうやって、リビングでひとりになると、雨音が際立って聞こえる。
慎太郎は、濡れたウエーブの髪からおちた雫に気づいて、床を拭き、今日会社であった出来事を思い出しながら言葉にしていった。
「あんな包装のサプリメントは無いって、サクラ先輩にききました。しかも、赤とかピンクって、そうとうに強い薬だとも……」
「ちょっと待って」と襖が開き、スエットに着替えた由里子がリビングに出てきた。
「なんか、わたし、すごい勘違いをされてるみたいだけど、とりあえずそのスーツ乾かしておくから、きみはマジではやくお風呂入って」
「え?」
「その後でしっかりと説明はするから、さあ、早く早く!」
由里子に背中をまた押され、慎太郎は廊下を来たときとは逆に進んだ。
「いやいや、お風呂なんて、だから申し訳ないです。俺このまま帰りますんで、先輩こそお身体に障りますし、お風呂はどうぞ……ていうかそれよりも」
「いいから入って!」
彼女は、やかましいその口を脱衣所に押し込み、戸を閉めた。そして背中で蓋をした。
「そのムラサキ色の唇も、見てるだけで、むかしの自分を思い出してトラウマなの!」
そして彼女は、背中の戸の向こう側に付け足した。
「でも心配しないで。私、
「え!? じゃあ……」
首からさげたペンダントスイッチを、スエットの襟元から引き出して、手にすると、脱衣所の戸を開け、それを彼に見せ、
「これは重度身体障がい者用の緊急通報システムのGPS付き端末。押すと、救急と警備会社と、おまけに警察に同時通報される」
呆気にとられている彼の顔はそのままに、ふたたび脱衣所じょ戸を閉めて、
「生まれつき心臓がわるくてね。三年前に移植手術を受けたの。だから、あなたのは勘違い。そういうのじゃないの」
のこりは後で話すからと、滲んだ涙にスエットの袖を当て、彼にそこをさとられないように背中で、戸が開かぬよう押し付けた。
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