第46話 江戸駅


江戸駅……


 様々な交通手段が集まる江戸の要衝で、馬は勿論、天空都市へと繋がる大鵬便。

 地下には水路が来ており、そこでは水中都市へと向かう大魚(クッシー)便などがある。

 駅の外観はと言われると、赤煉瓦で出来た瀟洒な建物で、遠く大和大陸にある独逸藩の技師が作ったとされている。

 ちょうど江戸城の真ん前にあるので、真尼達が泊っている御公儀旅籠の真ん前である。

 なので、康隆はすぐに蒙波と合流できた。


「よう。大変だったな」

「まったくだ……………………」


 そう言ってふらふらと歩く康隆だが、蒙波は持っていた荷物を背に歩きだす。


「こっちだ。丁度すぐ出られる夜行龍の便を取った」

「本当か?」


 言われて一緒に江戸駅へと入っていく。

 中は非常に広く、どこに行けばわからなくなるような広さで案内板はあるのだが、全然わからなくなる。

 そんな迷宮のような江戸駅の中を歩いて行く二人。

 中には提灯の明かりが灯っており、中々幻想的な雰囲気である。

 夜中だというのに大勢の人が歩いており、大都会江戸の凄みを感じる康隆。

 蒙波は迷わず地下へと向かっていく……………………


 地下に入ると、水中都市からの客が増えるのか、魚人が多くなる。

 そして、もう一人増えてくるのは『地下都市』の住人である。

 鼠人や蛇人、蟻人などの地下に住む人々が増えており、蒙波が向かった先は、『地下都市』へ向かう便だった。


「ここだ」


 そう言って、蒙波が見せたのは地下を走る『夜行地龍やこうちりゅう』だった。

 長い蛇のような地龍の上に簡単な箱が付いており、中には座席が並んでいて、その上に申し訳程度の屋根が付いている。

 そして、箱には『舞浜行き』と書かれた札が下がっている。


「舞浜……三木藩に逃げるのか?」

「丁度好いだろう? ほとぼりが冷めてから江戸にもどっても良いし、そこから他に逃げるのも良し」

「なるほど……」 


 言われて納得する康隆。

 だが蒙波は少しだけ尋ねる。


「でも婚約者から逃げて良いのか? 見た所悪い娘さんではないし、そのまま結婚しても良いんじゃないか?」


 そんな蒙波ににやりと笑う康隆。


「俺の種付け王への道はまだ始まったばかりだ! 世界中の女たちに種付けしてから帰るから大丈夫だ!」

「よく言うよ……」


 苦笑する蒙波だが、康隆は逆に尋ねる。


「お前の方こそ良いのか? 俺と一緒に旅して? なんか見聞を広めたいんじゃないのか?」

「いや、だったら猶の事お前と一緒に旅した方が良いだろ? 別にどこに行くか決まっていないんだから」

「それもそうか……」

 

 蒙波にしてみると、見聞を広めるのが仕事で誰と旅するとかは適当で良いのだ。

 

(それにほどほどで捕まって終わりそうだし……それぐらいで帰れば丁度好いだろう)


 康隆の種付け王になるという夢を微塵も信じていない蒙波。

 彼は荷物を夜行地龍の中へと入れる。


「さっ、行くぞ」

「おう!」


 そう言って二人は夜行地龍に乗った。

 そこで康隆はあることに気づく。


「あれ?」

「どうした?」

「何か赤い痕が出来てる?」


 そう言って蒙波に左手の薬指を見せる康隆。

 そこには指に指輪を嵌めたかのような赤い筋が出来ていた。


「何だろこれ?」

「知らん。縛られた時に出来た痕じゃないか?」


 蒙波が興味なさげに応えていると……………………


ごぉぉぉぉん……


『まもなく、舞浜行き夜行地龍が出発します……』


 鐘が鳴って、ホームに法術で拡声した声が流れる。


がちゃん……がちゃん……


 夜行龍の入り口に鍵が閉められる。

 駅員である侍姿の男たちが声を上げる。


「発進良し!」


ぶおおおわわぁぁぁぁぁぁぁぁんん……


 大きな咆哮を上げて、ゆっくりと夜行地龍が動き始める。


「さらば大都会江戸! 俺の種付け王への冒険はこれからだ!」

「だからその言い方は終わった……まあ、最初から終わってるから良いか」


 蒙波のつぶやきを聞かなかったことにする康隆。

 そして地龍はそのままトンネルの中へと消えていった……


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