第45話 年貢の納め時?


 数日後……


「号外! 号外! なんと火盗と両奉行所が力を合わせて光延の仲間の妖人を倒したってよ!」


 通りで瓦版売りの威勢の良い声が響き渡る。

 そんな様子を康隆は遠目……というよりは遠い目で見ていた。


「お手柄だったね♪ たっちゃん♪」


 嬉しそうにいそいそと康隆を看病する真尼。

 あれから、重傷を負っている康隆の元へ、癒しの祈祷で完治した真尼が現れ、旅籠へと連行された。

 康隆は怪我が残っているのに麻縄でぐるぐる巻きにされていた。

 康隆はため息を吐きながらぼやく。


「あのさ……せめて怪我を治してくれないかな? 祈祷術使えるよね?」

「だめよ。怪我が治ったら逃げるでしょ?」


 がっつり行動が読まれている康隆。

 うきうきと嬉しそうに帰り支度を始めている真尼。


「ようやくたっちゃんと帰れる! 帰ったら即祝言即子作りだからね♪ 子供は何人欲しい?」

「えーと……」

「わたしは36人♪」

「いくら何でも多すぎだろ!」


 真尼の嬉しそうな声に呆れて突っ込む康隆。

 真尼は不思議そうに小首をかしげる。


「ええー? 本当は100人欲しいぐらいなのに……」

「いや、百歳まで子供作らないと無理だろ?」

「そこは一回当たり5人ほど作れば……」

「死ぬぞ! マジで死ぬからな!」

「たっちゃん……心配してくれるのね……」

「そう言う意味じゃねぇ!」


 天然ボケのお姫様には一切のツッコミが通用しない。

 もはや呆れて何も言えなくなった康隆はため息を吐く。


「あのさ。せめて長屋に連絡を……」

「そっちはもう解約しといたよ。蒙波も別のところに行くから丁度良かったって」

「マジか……」


 今まで一緒にやってきた仲間があっけなく別れて悲しい思いになる康隆。

 

「えっと……せめて平蔵様に連絡を……」

「平蔵様なら、私から連絡しておいたよ。『こんなにきれいな奥方が居たとは』だって♪ きゃあ♪ 恥ずかしい♪」

「待って! どんな紹介をしたの!」


 外堀をがっつり埋めにかかってるのを聞いて凍り付く康隆。


(ど、どうしよう……)


 もはや逃げる方法が無くなってしまい、頭を抱えたい康隆であった。


  その日の夜……

 

「いよいよ明日は一緒に帰る日だね♪」


 嬉しそうにいそいそと旅の準備をまとめる真尼。

 康隆は困り顔でぼやく。


「えっと……このままだと動けないから……」

「ちゃんと馬の手配もしたから大丈夫だよ♪ 私が乗せてあげるから♪」


 馬に乗って荷物として送られるらしい。

 陰鬱な気持ちになる康隆だが、真尼は嬉しそうに康隆に体を預けるように横たわる。


「えへへへへ♪」

「何だよ……」

「これからずっと一緒に居られると思うと嬉しくて……」

「……今までずっと一緒だったじゃねぇか?」

「……だから寂しかったんだよ?」


 急に悲しそうな顔になる真尼。


「巫女修業終わったら祝言って言われてたから、必死で頑張ったし。少しでも早く帰れるように頑張って3年で終わらせたのに……………………たっちゃんが居なくなってたから私……………………」


すりすり……………………


 顔を康隆にすりすりさせる真尼。


「たっちゃん……もうどこにも行かないで……………………」

「……………………」

 

 そう言われて困った気持ちになる康隆。


(嫌いじゃないんだ……むしろ好きなんだけど……)


 何とも言えない気持ちになる康隆。

 すると……………………


「すやぁ……………………」


 そのまま眠りこけてしまった。


「真尼? どうしたんだ急に?」


 異常に気付いて尋ねる康隆だが、障子戸ががらりと開く。


「寝たようじゃな……………………」


 月婆がそう言って部屋に入ってきた。

 

「おい婆さん。一体何を……」

「お前も、もうちょっと遊びたいんじゃろ?」


 そう言って縄をほどき始める月婆。

 ちょきちょきとハサミで器用に切っていく。


「姫様はそれで幸せなんじゃろうな。じゃが、お前はもっと自由に生きたいんじゃろ?」

「まあ……」


 気まずそうに正直に答える康隆。


「思えば、お前にも苦労させたな。姫様はこの性分じゃ。片時も離れたくないゆえに一切替えが効かなかったからのぅ……お前は姫様が生まれてからずっと一緒じゃったからな」

「……………………」


 月婆に言われて渋面になる康隆。

 康隆としてもこれほど一途に思い続ける美人なので嫌いなはずがない。

 こと、性格に関しては尽くしてくれているので、何一つ申し分は無い。

 

 ただ、

 

 特に姫様の身分が上なので下がるのは常に康隆である。

 このような目に遭って辛くないはずがない。

 月婆はちょきちょきとハサミで縄を切ったお陰でようやく解放される康隆。

 立ち上がろうとするのだが……


「痛ててて……」


 傷が完全に癒えておらず、痛みを抱えたまま、ふらふらと立ち上がる。

 一週間近く歩いていなかったので、ろくに歩けていない。


「早く江戸駅に行け。そこで蒙波が待っている」

「蒙波が?」

「そうじゃ。あやつに逃げる場所を任せておる。じゃからわしもお前の逃走先は知らん。姫様には良いように言っておくから今のうちに逃げよ」

「ありがとう! 月婆!」


 そう言って逃げようとする康隆だが……ふと思い立って真尼の耳元に少しだけ囁いた。


「必ず帰るから。もうちょっとだけ自由で居させてくれ」


 そう言って康隆は旅籠の外へと出た。


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