第38話 妖人


ばらばらばら……


「これは!」

「下がれ! 下がれ!」


 突然爆破した店の瓦礫にやられて負傷する武士たち。

 既に何名かが負傷しており、被害を受けている。

 濛々たる土煙の中から現れたのは……


「光延様の仇は私が討つ!」


 宙に浮かぶ妖人の姿があった。


 4枚の翼をバサバサとはためかせる妖人で、頭は八つあった。

 そして、その下にはどこから現れたのか、鎌槌蜜柑や砂糖男、八手パンダなどが居る。

 そんな威容を見て、遠山金四郎がにやりと笑う。


「おうおうおうおう……ずいぶんイキってるじゃねぇか!」


 それを聞いて大岡越前が静かに言った。


「お前にだけは言われたくないだろうな……だが、イキってるというのは同意だ」


 遠山金四郎はそれを聞いて笑った。


「だったら、あのクソガキを成敗しようじゃねえか! 野郎ども! 行くぞ!」

「「「「はい!」」」」


 北町奉行所の部隊が現れた鵺たちを倒そうと襲い掛かる!

 それに対して南町奉行所の部隊は冷静に対処した。


「決して無理をするな。一体一体確実に倒していけ!」

「「「「はい!」」」」


 冷静な大岡越前の指揮で確実に妖怪たちにダメージを与えていく南町奉行の部隊。

 一方、それらに対して、


「お前は!」

『おかしら……なんで俺に行かせたんですか……』


 お爺さんの亡霊が現れて、凍り付く鬼平。

 

「ああ……ああ……」

「おかしら……寂しいです……おかしらも来てくだせぇ……」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 先ほどまでとは大違いで混乱する鬼平。

 それを見て蒙波は聞いた。


「あれは何だ!?」

「うまぶきの利平治だ! まさか死霊になっていたとは……」


 火盗の目付の一人が顔をゆがませる。

 

(あの何人も生まれ変わりが居る利平治か!)


 軽い口調とは裏腹に相当堪えたトラウマのようで、鬼平が混乱している!

 そのせいで、火盗の部隊が足を引っ張る形になってしまった!


「……成仏発願! 悪霊退散!」


 井関法師が死霊成仏経を唱えるのだが……利平治には効かない!


『おかしらぁぁぁぁぁぁ……』

「止めろぉぉぉぉぉぉ!!」

「馬鹿な! !」


 現れた利平治の死霊に死霊成仏経が効かなかった!

 この死霊成仏経とは死霊系の妖怪に特攻能力がある法術で、本来なら成仏しきれないまでもダメージを与えることが出来る。

 だが、それすらも一切感じられない利平治の死霊に困惑する井関法師。

 しかもそれだけではない。


「「「「「「「「そらぁ!」」」」」」」」


 どごごごっごぉっぉぉぉんんん!!!!


 空を舞っている加奈が大量の法術を打ち込んでくる!

 そのせいで惜しいところで妖怪たちを倒しきれない!


「おのれぇ! 炎よ~♪ 燃え上がれ~♪」


 空に飛んでいる鳥人たちが聖歌で加奈に法術攻撃を仕掛けるのだが……


ぽわぁぁん……


 法術が不可視の鏡に当たって跳ね返ってきた!


「くそっ!」

「炎よ~♪ しずまれぇ~♪」

 

 バシュン……


 跳ね返された法術を仲間が聖歌でかき消す!


「こん畜生!」


べべべん♬


 琵琶を持っていた鳥人が空を飛ぶ翼を持った武者人形を操って加奈に攻撃を仕掛けるのだが……


ぱすぱす……


 斬りつけても突き刺しても一切効果が無い。

 着物すら破ることが出来ず、攻撃が一切効かない!

 加奈は高らかに哄笑を上げる。


「ふははははは!!」

「効かないんだよぉぉぉ!!」

「あんたらの攻撃は……」

「一切効果が無いんだよぉぉぉ!!」

「無駄無駄ぁぁぁ!!」


 そう言って嘲笑う加奈。

 頭が多いので輪唱みたいになっているのもイラっと来る。

 それを見た蒙波がクナイを手に加奈に投げる!


「食らえ!」


トストストストス……


 投げたクナイのすべてが加奈へと刺さる!


(光延は何故かクナイの攻撃がやたらと効いたらしいからこれで!)


 そう思った蒙波だが、刺さったクナイは力なく下に落ちてくるし、加奈はどう見てもダメージを食らっていない。

 加奈はにやりと笑う。


「光延様の失敗を見ていた」

「同じ過ちはしない」

「如何なる攻撃も私には効かない」

「無駄無駄ぁ!」

「喜ぶがいい」

「貴様らは」

欺瞞神塵芥ぎまんしんじんかいさまの」

「供物にしてやる」

「きゃははははは!!」


 そうけらけら笑う加奈。


(欺瞞神塵芥だと? それが新しく現れた妖神のことか!)


 聞いたことも無い名前の妖神だが、恐らくは危険な妖神なのだろう。

 

(どうする!?)


 異常な強さを見せる妖人に強力な妖怪たち。

 特に問題なのは加奈と利平治の死霊である。

 この二人をどうにかしなければならないのだが、どうにもできない。


「この野郎!」


 びゅおおおん!!


 気功術の一種なのか、一人の傾奇者が放った光の帯が加奈へと向かい……………………


ビシィ!


 加奈を縛り付ける! だが……


「効かないんだよぉ!」


バリン!


 あっけなく光の戒めを壊す加奈。


「おのれぇぇぇぇ!!」


 バシュッ!


 陰陽師の傾奇者の一人が蜘蛛の式神を使って糸を加奈に放った!

 だが、流石に上空を飛ぶ加奈は遠すぎた。


「しゃらくさいわぁ!」


ぼごぉぉぉぉぉ!!


 口から炎を吐いて糸を焼き切る!


「「「「「「「「お前たちはここで死ぬんだよぉぉぉ!」」」」」」」」


 高らかに哄笑する加奈。

 それを見て全員が苦い顔になる。


(((((どうすればいい?)))))


 全員が加奈の圧倒的な力に絶望した時だった。


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