第39話 走馬灯


 一方、その頃……


 月婆は夢を見ていた。


(これが走馬灯か……)


 人生の最後にみると言われている走馬灯を見ていた……

 人が死ぬ時は危険な状態であるときが多い。

 だからこそ、危機的状況を打破する為に人生を振り返ってピンチから脱するための知識を探っているのだと言われている……

 彼女が見た走馬灯とは……


「ああぁん♡ そこぉぉぉ♡」

「良いのぅ♡ そこが良いのぅ♡」

「感じちゃうぅぅ♡ もっとぉぉぉ♡」


 走馬灯と言うよりはAV大全集のようなものを見る月婆。


(我ながら色んな男と色んなことやってきたのぉ……)


 とてもではないが倫理審査委員会に必ず引っかかりそうなことばかりが通り過ぎていく月婆の走馬灯。

 そんな中ひと際目立つ思い出があった。


ぱすん……


 紙を丸めただけの紙棒の一撃を腹に受けた若かりし頃の月婆。

 この当時は物凄く色っぽい美少女で、毎日のように男を替えていた時期だ。

 まだ背も伸びきってないようなあどけなささえ残っているのに、匂いたつ色香が凄い。

 そんな物凄い美少女だが、背の高いよぼよぼの老人の一撃をぎょっとしている。


「なんで……」


 顔を青くする月婆。

 そうなるのにも理由があった。


(……この頃、負け知らずだったのに、この男にだけは負けてしまったのぅ……)


 足もガクガク震えて、腰もひん曲がっているような老人だが、そんな彼に一撃を食らうとは思えなかった。

 場所は畳部屋でどこかの宿だろうか?

 打ち合い勝負をすることになったが、部屋の中なので下手にやるわけには行かないので紙を丸めた棒でやり合ったのだが、あっさりと負けてしまったのだ。

 老人は嬉しそうに笑う。


「わしの勝ちじゃな……さ、一発やらせてもらうぞ♪」


 いやらしい笑みを浮かべる老人に悔しそうな顔を浮かべる月婆。

 

(別に老人とやるのは初めてでなかったが、剣で負けるのは初めてじゃった……確かに大した損も無い勝負じゃったが鼻っ柱をへし折られてひたすら悔しかった……)


 月婆とて現役の頃は最強の一角に居た傾奇者で、この時も町では敵なしだった。

 なのにひょっこり現れた爺さんにあっさりと負けてしまった。

 爺さんは舌なめずりをしていやらしく笑う。


「勝気な女をわからせるのが一番楽しいのぅ……」

「くっ……………………殺せっ!」


 ありえない言葉を叫ぶ月婆に爺さんは笑う。


「ひょっひょっひょっ! こんな美人を殺すなんてもったいない。安心せい。絶対後悔させんから……さ、おいで……」


 爺さんが月婆の手を掴むと……………………


カクン……


 月婆の力が抜ける。

 

「あ……へ……」


 爺さんはそのまま流れるような動作で月婆にキスをする。

 すると……………………


「!!!!!」


 月婆の目が見開いた!

 今まで感じたことのない刺激が全身を駆け巡ったのだ。


(あの時ほど驚いたことはない……)


 見るからによぼよぼの爺さんなのに恐ろしく上手いキス。

 それだけで全身の力が抜け、爺さんに身をゆだねてしまった。

 爺さんはにやにやと笑う。


「さて、堪能させてもらおうかの」

「や、やめ……」

 

(この後たっぷりとわからされたのぉ……)


 苦笑してしまう月婆。

 そして、そこからすぐに時が流れて……


ぱすん……


 同じように紙棒をお腹に食らう月婆。

 この時は完全に年老いており、月婆の方が枯れてしまっていた。

 だがダメになっておらず、まだまだ若い者には負けないぐらいの強さを誇っていた。

 そして、今回は当てた相手が、逆にまだ年端も行かない子供だった。


「よっしゃぁ! ようやく一本取った!」


 嬉しそうにガッツポーズを取る少年。

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