第35話 妖怪の親玉
一時間後……………………
ザシュッ!
「ぴぎゃぁぁがあぁぁぁあ!!」
最後の枯れ桃餓鬼がやられて、断末魔の叫び声が上がる。
「これで全部だな……」
「ようやくか……」
敵が掃討されたのを確認した康隆は辺りの様子を見る。
少しは疲れが回復したので、もうひと踏ん張りするためにもあたりを見渡すのだが、決して少なく無い被害が出ていた。
「行健殿! 行健殿ぉぉぉ!!」
やられた同心の側で号泣している男が居る。
一方で傾奇者たちも少なくない被害が出ていた。
「道願! 目を開けてくれ道願!」
「……ひっく……道願……」
仲間をやられた傾奇者が泣いている。
また、黙々と骨を拾っている者たちは邪王屑にやられた被害者の仲間だろう。
康隆自身、知っていた相手も何人かいた。
さほど話すような相手ではなかったが、素直に目を閉じて黙とうをささげる。
「千穂。大丈夫か?」
「何とか……魔封じが解けたら自分で治すわ」
千穂も生死にかかわる程ではないものの、動けない怪我を負っている。
「死屍累々だな……」
「ああ……」
あまりにも被害の大きい捕り物になってしまったことに眉を顰める康隆と蒙波。
思わず目を背けた先には枯れた池があった。
(確かここに邪王屑が隠れていたんだよな……)
そんなことを考えていると、少しだけ気になることがあった。
(でも下見に火盗が何名か屋敷内を確認してるんだよな? 邪王屑ほどの大妖怪が襲わずにいたのか?)
邪王屑ほどの大妖がずっと池の振りをしていたことが気になった。
大妖怪と言ってもそれほど知性がある生き物ではない。
しかも……
(俺が挑発してもすぐにはこなかった……初めて戦う相手だが、そこまで知性があったのか? それにしちゃ、少し経ってから急に襲ってきたし……)
不思議なことに最初は賢く、自分に都合の良い相手だけを狙って襲ってきたのに、途中から本能的に動いているように見える。
まるで……
(だれかが操っていたかのような動きだ……………………)
不可解な動き方に首を傾げる康隆。
すると……………………
キラリ……………………
池の中できらりと光る物があった。
(なんだ?)
池に降りて落ちていたものを確認する康隆。
(茄子の根付?)
根付とは一言で言えば携帯ストラップのようなものである。
元は財布などにつけるアクセサリだったのだが……
(……まさか!)
康隆が嫌な予感がした時だった……
「お頭! 大変です!」
「何だ?」
指揮をしていた鬼平の元に密偵のお爺さんがやってくる。
「外で重傷の女と婆さんが居ます!」
「なんだと!」
「えっ?」
それを聞いて何やら嫌な予感がする康隆。
「一人は巫女服姿の若い蜘蛛女で、もう一人は能楽士の婆さんです!」
「ちょっ!」
それを聞いて慌てて鬼平の前に出る康隆。
「すんません! 俺が行っていいですか? 知り合いかもしれないんです!」
「……わかった! 行ってこい!」
「ありがとうございます!」
慌てて外へ出る康隆。
「こっちです!」
密偵のお爺さんが案内する方向へと向かう康隆だが、そんなに走ることは無かった。
最初の角に曲がるとすぐに二人は居た。
「たっちゃん……」
「うぐぐぐ……」
重傷を負った月婆に癒しの祈祷術を施している真尼が居た。
「大丈夫か!」
「わたしは何とか……でも月婆が私を庇って……」
「がふぅ……」
軽く吐血する月婆。
かなりの重体ではあるが、巫女である真尼が早めに癒しの祈祷を施したので助かるだろう。
ぽたぽたと涙を流す真尼。
「ごめん……たっちゃん……わたし……」
「いや、いい……」
真尼の言葉を制して康隆が真面目な顔で言った。
「犯人はもうわかってる……」
康隆には誰がこれをやったのかわかった。
真尼は懐から何かを手に持って康隆に渡した。
「じゃあ、これは……」
「ああ。貰っとく」
そう言って真尼の渡した何かを貰う康隆。
それを手に取ってみてみると……
「……………………やっぱりか」
そこには
特に何の装飾も無いありきたりな簪だが、康隆はそれに見覚えがあった。
そうこうする内にバタバタと鬼平も部下を連れてやってきた。
「大丈夫か?」
「はい……ただ、平蔵様。ちょっとお耳に入れたいことがあるんですが……」
「むむ……今じゃなければ駄目か?」
「はい。なぜなら……」
少しだけ言い淀んで……康隆ははっきりと言った。
「先ほどの妖怪の親玉がわかりましたので」
「……………………なに?」
鬼平はそれを聞いて眉をひそめた。
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