第34話 枯れ桃餓鬼
「きゃぁぁぁ!!」
メスガキの千穂が今まさにやられそうになっていた!
「千穂!」
ガキン!
枯れ桃餓鬼の枯れ枝のような手の攻撃を受け止める慎之介!
「出て! 出てよぉ……」
ぶん……ぶん……
千穂は法術を封じられたのか、必死で錫杖を振るっているが、法術が出てこない!
慌てて援護に向かう康隆と蒙波。
「火遁!」
ぼわぁぁぁぁぁ!!
強力な炎の珠が蒙波から出て枯れ桃餓鬼に当たる!
「ぐげばがぁぁぁ……」
萎んだ桃に枯れ枝の手足が生えた枯れ桃餓鬼はあっという間に焼かれる。
だが、枯れ桃餓鬼はかなり数が多く、10体近く居るのだ。
しかも……
「来るなぁぁぁ!! ごばぁ……」
邪王屑も暴れまわっている!
枯れ桃餓鬼を倒そうと物理攻撃に長けた武士たちが戦っているのだが、その彼らを邪王屑が襲って飲み込んでいく!
そんな様子を見て康隆は目を細めた。
「おかしい! 妖怪たちが連携して動いている!」
「ああ! どういうことだ!」
通常、妖怪は基本的に動物に近いもので、知恵がある妖怪以外は動物的にしか動かない。
法術を使う妖怪も基本的に本能的に使っているだけで、知恵が無かったりすることの方が多い。
だが、邪王屑は明らかに法師を避けて、武士たちを狙っている。
蒙波は吐き捨てるように叫ぶ!
「ちくしょう! どうする!?」
少し離れている分、対応しやすい康隆たちが何とかしないと危険だ!
(あの邪王屑の動きさえ止められれば!)
そんなことを康隆が考えていると……………………ふと丁度良いものがあることに気づいた。
(うん? あれは蔵か?)
屋敷内にちょっとした土蔵があることに気づく。
窓が壊れていて、土蔵としては役に立ちそうにないが……それを見てピンときた。
(これならイケる!)
そう思った康隆はすぐに行動した!
落ちていた大きな木の枝を拾って、それを邪王屑に投げつける!
「ほらほら! こっちだ早く来い!」
ずぷん……ずぷん……
邪王屑に吸収されてすぐに溶けてなくなる枝だが、挑発の効果ぐらいはある。
康隆の不可解な行動に蒙波が声を上げる。
「何やってんだタカ!」
「これからあいつをあの蔵の中に誘導する! 蒙波は動ける法師を蔵の側に集めてくれ!」
「わかった!」
慌てて蒙波が他の法師を集め始める。
後は康隆が邪王屑を誘導するだけだが……
(うん? 挑発に動じない?)
一応、枝を当てた時に少しだけ動きは止まるのだが、こっちの挑発に反応しておらず、相変わらず武士たちの隙を狙っている。
(やっぱり! 何か操っている奴が居るな!)
注意深く周りも見ながら、邪王屑を挑発する康隆だが……
ぐるん……
邪王屑が半回転した……おそらくだが、康隆を狙っているようだ。
(よし! 動いた!)
それに気づいた康隆は更に落ちている廃材を投げつけて挑発する。
ずぷん……ずぷん……ずずず……
邪王屑が康隆を狙って動き始めた!
「こっちだ! 早く来い!」
注意深く邪王屑をおびき寄せる康隆。
邪王屑は巨体ゆえに動きは直線的になりやすい。
要するに早くは動けるのだが、小回りは効かないので上手く立ち回ると簡単に避けられる。
と思っていると……
ぶるん……
康隆は何か法術を受けた感じがあった!
ちらりと見てみると、枯れ桃餓鬼がこちらに法術封じを仕掛けたらしい。
(いや、意味ないって……)
元々法術が使えない康隆には効果が無い。
そんな真似をやり始めたことであることに気づく。
(??? 急に操る奴が居なくなったのか?)
どうやら、邪王屑も枯れ桃餓鬼も連携を取ることを止めたようだ。
野放図に暴れまわっているようで、枯れ桃餓鬼はめたらやったらに法術封じを使っている。
(だから急に挑発に乗ったのか……)
枯れ桃餓鬼自体はそれほど強い妖怪ではないので、邪王屑に集中する康隆。
ぐにょん……
まるで力を貯めるように低く歪む邪王屑。
(来るか……)
改めて後ろを確認して数歩下がる康隆。
後ろには堅固だが、扉の壊れている蔵があり、その蔵の入り口と邪王屑との角度を調整する康隆。
邪王屑は力を貯めて、ピタリと止まったのを見計らって!
(ここだ!)
康隆は思いっきり横っ飛びをして見せる!
どんがらがっしゃん!
蔵の扉は壊れて邪王屑の姿が一時的に消えてしまう。
土煙が上がる中、康隆はすぐに蔵の中を確認する!
ぷよぷよ……
土煙の中に何かが蠢いていた!
「蒙波!」
「おうよ! みんな頼む!」
「「「「「豪焔発願!」」」」」
ごばぁぁ!!
蔵の中が真っ赤に燃え上がり、激しい炎が噴き出す!
残った法師たちが炎の法術を総出で仕掛けているので、蔵の中で炎が暴れ狂っている!
「死ねやぁぁぁ!!」
「燃やし尽せぇぇぇ!!」
立て続けに炎の法術をどんどん打ち込む法師たち。
一方で、枯れ桃餓鬼の方はと言えば……
ザシュッ!
「邪王屑は止まったぞ! あとはこいつらを絶対に蔵に近寄らせるな!」
「こいつらは全部倒せ!」
元々それほど強い妖怪ではない枯れ桃餓鬼なので、あっけなく倒されていく……………………
もはや戦場の勝敗は決まった。
康隆はぺたんと腰を地面に下ろす。
そこに蒙波がやってきて一言。
「さぼるなよ」
「休ませてくれよぉ……………………」
流石に疲れてへたり込んでしまう康隆だった。
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