第33話 邪王屑

数分後……


 さて、あらかたの敵を倒し終えたら、空き屋敷の部隊は比較的暇だった。

 まあ、ここで戦うには土塀を越えねばならないし、その前に槍で追い払っている。

 何名かは入ってきたが、多勢に無勢であっさり捕縛された。


「とりあえず、小路の方はもう居ないみたいだな」

「通りに出た連中もあらかた捕縛されてるしな」


 土塀の上から様子を見ても、もう小路の方は片付いている。

 反対側もおんなじことを考えていたようだ。


「もうちょっとで撤収だな」

「大捕り物だが上手く行って良かったな」


 そう向かいの空き屋敷の部隊と話していると……


ゆらり……


 向かいにいる話した相手の後ろで何やら蠢いた。


「おい、その後ろはどうした?」

「後ろ?」


 言われた者がくるりと振り返ったが特に何も見当たらなかった。


「何もないぞ?」

「あれ? おかしいなぁ……」


 首を傾げる男を見てから、不思議そうにあたりを見渡す男。


(なんも無いぞ?)


 と言っても、実は屋敷の敷地内は意外と暗い。

 小路の敵を倒すために小路には明かりがついているのだが、一方で敷地内は暗いのだ。

 暗くても多くの仲間が動き回っているので、何かが動けばすぐに気づきそうなのだが……あることに気づいた。


「あれ? 池の水が無くなってる?」

「……池?」

「ああ。こっちの屋敷には池があって、そこに水が溜まっていたんだけど……」


 そんなことを話している時だった……


どぷん!


 


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 それを見て思わず悲鳴を上げる向かいの屋敷の男。

 悲鳴に気づいた何名かが『その何か』を見て叫んだ!


「じゃ……『邪王屑』だぁぁぁぁぁ!!」


 その言葉を聞いて全員が耳を疑ったが、それで終わらない。


「ごばばばばああぁぁぁ……………………」


じゅじゅじゅぅぅぅ……


 邪王屑に飲み込まれた男が悲鳴すら上げられずにそのまま溶けて骨となった。


からから……


 邪王屑から吐き出された男の骨と武器が乾いた音を立てて吐き出される。

 それを見て屋敷に居た火盗の面々が声を上げる!


「照らせ! 明かりを持ってこい!」


 慌てて提灯を屋敷内で照らして様子を探る!

 そして、邪王屑の威容がわかると同時に全員が息をのんだ。


 大きさは3mぐらいとかなり大きい。

 普通の屑妖はせいぜい中型犬程度の大きさだが、邪王屑はその数倍近い姿をしている。

 そして、何よりも危険なのはその体である。

 攻撃こそすり抜けるのだが、溶かす力が半端なく、攻撃した武器を溶かしてしまう。

 そのため、中心にある核を潰すのが難しいのだ。


 なので、


 そんな邪王屑が出たので屋敷の部隊が凍り付いた。

 通りで捕縛していた部隊が異変に気付くと同時に伝令が鬼平の元にたどり着いた!


「邪王屑だと!」

「はい! 屋敷内で突然現れました!」


 それを聞いた鬼平が叫ぶ!


「法師たちはすぐに邪王屑に迎え! 井関! 法師をまとめてくれ!」

「わかった!」


 慌てて邪王屑討伐に向かう法師たち。


「千穂。お前も行け!」

「わかった!」


 戦闘に参加していた慎之介に言われて千穂も向かう。


「おいおい……………………」

「シャレにならんな」


 康隆は盗賊を縛りながらも状況の恐ろしさに恐怖する。

 邪王屑はもっとも凶悪な屑妖で何十年と屑妖のまま生き抜いたとされる。

 ひとたびこの次元に達するととても簡単に倒せるものではなく、凶悪な強さを誇るようになる。

 とは言え……………………


「法師たちが集まっていて良かったな」


 この世界では盗賊と言えど法術を使う破戒僧が加わることも少なくない。

 その辺の準備も怠らなかったので何とかなりそうだ。

 そう思っていると……


「枯れ桃餓鬼だぁぁぁぁぁ」

「何っ!」

「まずい!」


 それを聞いて凍り付く康隆と蒙波。

 枯れ桃餓鬼とは枯れた桃が餓鬼に変化したもので、


 『法術しか効かない邪王屑』と『法術を封じる妖怪』が同時に現れたのだ!


 最悪の組み合わせに気づいた二人はすぐに動いた!


「行こう!」

「ああ!」


 すぐに現場へと向かう二人。

 と言ってもすぐそこなので、屋敷の門へ回り込んで中へと入る。

 そこはヤバいことになっていた。


「ぐわぁぁぁぁ!!」


 法術を扱う僧侶たちが枯れ桃餓鬼に殺されるところだった!


「きゃぁぁぁ!!」


 そして、メスガキの千穂が今まさにやられそうになっていた!


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