第32話 虚栄の美香

「これを待っていた!」

 

 康隆がそう叫ぶと同時に篤蔵の前に集まっていた風が一気に康隆へ押し寄せてくる!

 だが、康隆は冷静に獺のぬいぐるみを思いっきり蹴った!


ゲシィッ!


「どっせいぃ!」


 康隆が蹴ることで殺到した風の圧力は獺のぬいぐるみへにぶつかる!


ぼごぉぉぉん!!


 獺のぬいぐるみはぶつかった勢いで盛大に遠くまで飛ばされて……


ちゃぽん……


 ちいさな水音と共に川に落ちた。


「んな!」


 起きたことに思わずあっけにとられてしまう篤蔵。

 その隙を見逃すほど康隆も馬鹿ではない。


「しめた!」


 一気に距離を詰めて篤蔵の前に入ると……


プチン……


 琵琶の弦を最初に切ってしまう!


「なにぃ!」


 弦を着られて動揺する篤蔵に両刀をクロスして首に押し付ける康隆!

 流石にここまでやられてはどうにもできない。

 深くため息をついて篤蔵は消えるような声で言った。


「……降参します」

「よろしい」


 そう言って篤蔵を縛り始める康隆だが、最後に一つだけ気になったことを聞いた。


「よいしょっと……ところで気になってたんだが、何で獺のぬいぐるみなんて傀儡を使ってたんだ?」


 基本的に傾奇者の扱う傀儡は雄々しく勇ましい武者鎧を着た侍の傀儡を使う。

 その方が箔が付くので見た目を気にする傾奇者はそっちが多い。

 それを聞いて恥ずかしそうに篤蔵は言った。


「いやあ、ああいった可愛い系の傀儡だと女の子の受けが良いんですよぉ~♪」

「そう言う理由かよ!」


 思わず篤蔵の頭をはたく康隆だった。


 一方、虚栄の美香と戦っている蒙波はと言えば……


ピカン! ジュッ!


(あぶねぇ!)


 間一髪でビームを避ける蒙波。

 先ほどから一つ目小僧が放つビームのせいで攻めあぐねいていた。

 そんな篤蔵にさらなる不運が舞い込む。


ずりっ!


 道に落ちていた小物に足を滑らせてしまう!


「しまっ!」


 思わず尻もちををついてしまう蒙波。


(そうか! 他の連中の小物か!)


 他の人たちも戦っているので、ちょっとした拍子で何かしらの小物が落ちてしまう。

 よく見ると色んな小物が落ちており、それに足を取られてしまったのだ。

 何とか立ち上がろうとするのだが、すぐに美香の錫杖が飛んでくる!


ガギィン!


「中々粘るじゃない……どこまで粘れるかしらね!」


 そう言って押し切ろうとする美香!


「くそっ!」


 無理な態勢で受けているので、力が入らない蒙波。

 

「さっさと下がりなよ!」


 そう言って、押し切ろうとする美香だが……


ドンッ!


 何かに押される形で軽く飛ばされる!

 

「何っ!」


 美香が自分を押しのけた奴を見てみると……火盗にやられてノビている仲間の盗賊が居た。

 ほかの者も戦っているので、


「隙あり!」


 蒙波が持っていたクナイを思いっきり投げる!


プス……


 蒙波のクナイは寸分の狂いもなく、一つ目小僧の大きな目に当たる!


シュゥゥゥ……………………


 そのまま霧のようになって消えていく一つ目小僧。


「しまっ!」


 慌ててもう一度召喚しようとする美香だが、それを許してくれる蒙波ではなかった。



「動くなよ……」


 クナイを首元に当てる蒙波。

 

「大人しくお縄に付きな」

「ちくしょう……」


 悲しそうに後ろ手に縛りあげられる美香。

 ふと、蒙波は美香の首飾りを見て不快感が出た。

 あの殺した敵の指を集めているとかいう指でできたネックレスだ。


「この趣味の悪いネックレスは捨てておくぜ」


 そう言ってネックレスを取ろうとする蒙波だが……


「うん? 何じゃこりゃ? おもちゃの指じゃねぇか」


 ネックレスについていた指は全部偽物だった。

 おもちゃの指で首飾りを作っていたのだ。


「あはははは……」


 乾いた笑いを浮かべる美香に蒙波はあきれて尋ねた。


「何でこんなものつけてたんだ?」

「いやあ、ハッタリ聞かせようとしてそういうの作っただけなんですよー」

「まったく……」


 美香のふざけた物言いに蒙波はあきれた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る