第30話 穴昆田


 その日の真夜中……


 草木も眠る丑三つ時に盗賊団『穴昆田あなこんだ』がとうとう動き出した。

 倶楽部『錦蛇』よりぞろぞろと男たちがほっかむりをして出てきた。

 闇に紛れる為に全員が黒く武装しており、何人かは名のある無頼漢も居た。

 中には女も居るが、かなりの悪党で有名な奴ばかりである。

 さて、そんな彼らの動きだが……


「動き出したな……」


 鬼平が遠巻きに奴らの様子を見ていた。

 火盗の部隊が全部集結しており、既に包囲網を形成している。

 密偵の一人が鬼平に静かに囁く。


「もう少し行きますと人が居ない小路に入ります。両側も空き屋敷になりますので、そこに佐島様たちが待機しております。そこが一番御用に適しております」

「わかった」


 それを聞いて打ち合わせ通りに部隊を動かす鬼平。

 小路のような小さな道では渋滞を起こして順番に捕まえやすく、更に小路の両側の屋敷も火盗が押さえてある。

 完全に捕縛に適した作りになっているので丁度良いのだ。

 彼らがとある小路へと入ったその時だった。


 ぴゅいー♪


 どこからともなく笛の音が流れる。


「「「「「御用だ! 御用だ!」」」」」



 小路をふさぐように火盗の提灯が並ぶ!

 それだけではない!


「「御用だ! 御用だ!」」


 小路の両側にある空き屋敷からも火盗の提灯が出てくる!

 完全に袋小路に追い詰められたことに気づいた穴昆田の火流炉かるろはすぐに武器を手に取った!


「しゃらくさいわ! 破るぞ!」


 親玉がそう叫んで戦いが始まった!


   数分後……


 いたるところで大乱戦が始まった!


「どぉりゃ!」

「せい!」


 ガギィン!


 武装した火盗の目付や同心たちが、逃げようと襲ってくる盗賊たちの攻撃を受けて捕えようと戦っている!


 だがしかし……


ズシャァ!


「ぐぎゃあぁぁぁぁ!!」

「畜生……」

 

 斬られたり、つかまったりとやられている。

 土塀に上って屋敷内から逃げようとする者も居ることには居るのだが……


「おりゃぁ!」


 げしっ!


「ぶげぇ!」


 屋敷内からの袖絡みや刺股の一撃で戻される!

 完全に袋小路に追い込まれた盗賊たちだが、助かるために必死だ。


 ばさささ……………………


 羽根が生えている鳥人たちの中には空から逃げようとするのだが……


 ぴゅっ!


「ぐげぇ!」


 狭いところから飛び立っても弓の餌食になり、落ちて重傷を負っている。

 よしんば、矢に当たらなかったとしても……


「炎よ~♪ 燃やしつくせ~♪」


 ぼわぁん!


 空を飛んでいた火盗の鳥人たちの『聖歌』攻撃によって墜ちていく……

 そんな感じで一方的な戦いになっていた。


 一方、我らが康隆たちは何をしていたのかと言われると……


「ふっ……やれるものならやってみな……」

 

 じゃららん♪


 琵琶を鳴らしている男と対峙していた。

 年のころは30ぐらいだろうか? それなりに経験を積んでいる強そうな男で、隼の羽根を背中に生やしていることから隼人はやぶさびとだろう。

 黄橙の癖毛をウルフロングにしている男で見るからに勇ましい。

 ただ、気になる点があるのは……


(隼人なのに、何でかわうそのぬいぐるみなんだろう?)

  

 額に獺の文様が入っており、男の前にも大きな獺のぬいぐるみが居た。

 

 もふもふ……


 何故か愛くるしい動きを見せる獺のぬいぐるみだが、それを見ていても一切油断しない康隆。


……)


 琵琶士とは音楽を武器とする鳥人が生み出したやり方で、元々『歌手』と『楽師』というやり方を使っていた。

 歌手は『聖歌』を歌うことで祈祷術を使えるし、楽師は口が篠笛などでふさがれてはいるものの、人形を操ることで物理攻撃を可能にするやり方だ。

 そこで、編み出したのが両方を出来るようにする『琵琶士』で、琵琶で人形を操って聖歌で魔法も使うことが出来るようになった。


 それはともかくとして、琵琶士の男は叫んだ!

 

「獺の篤蔵。押してまいる!」


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