2️⃣

「まさか! 合格だよ、文句無しの。アンタならリーロンの隣でも上手くやっていけるでしょ。まぁ、リーロンの隣に並ぶにはちょーっと色々小さいけどね」


 マリアはアインの言葉にムッとして、「これから成長期なんです!」と言い返した。マリアは背が低いことを気にしているから、それを言われると腹が立つのである。ムキになって言い返すマリアに、愉快そうにアインは笑う。


「にしても……なんで田舎の男爵令嬢がこんな簡単に人殺せるんだよ」


 ポツリと、ツヴァイが呟く。彼は並べられた首を見ていたが、恐ろしがっている様子は無かった。むしろマリアが苦労無くテストを合格したことが不満気な様子で、マリアはそれに対して不満を覚える。条件を押し付けてきたのはそっちなのに、まるでこちらがおかしいみたいなその態度は業腹だ。


「べつに簡単ではないですよ。超疲れましたし。それにアタシが手を下したのは半分ぐらいで、残り半分は{ツイン}と{アロー}が殺しましたし。でも、殺しに{迷宮メイズ}も協力してくれたのは意外だったなぁ。首の落とし方を憶えたなんてママ感激」


「だぁかぁらぁ! なんであんな物騒な奴等をお前が従えてんのかって訊いてんの!!」


「一言も訊かれてないですそんな疑問」


 マリアは不満気に眉を下げて、そして「魔神ですよ」とツヴァイな言った。


「あの魔神達の正体は、アタシもよくわかっていません。でもそんなのどうでもいいじゃないですか。あの子はアタシを愛してくれて、アタシもあの仔達を愛してくれる。アタシの時間を捧げる代わりに、あの仔達はアタシの願いを叶えてくれる。そういうウィン・ウィンの関係でやってきてるんです。従えてるんじゃない、そこだけは誤解しないでください」


「それで? いつから魔法が使えるようになったんだよ」


「テストの次は面接ですか? 勘弁してくださいよ。アタシ忘れっぽい性格だから過去の詳細なんて一々憶えてないです」


 これは半分嘘で半分本当だった。マリアは忘れっぽい。それは魔神の力を借りる対価として己の過去の“時間”を差し出すからであり、差し出した時間はマリアのものでは無くなる。だから思い出すことが出来ない。しかし魔神達と出逢ったあの日のことはしっかりと憶えているし、日記にもキチンと正確に書き連ねて記録してある。


「それより、この首どうするんですか?」


「兵士に片付けさせる。お前が気にすることじゃない」


「あらそうですか。それはご丁寧にどーも」


 リーロンに言われ、マリアは改めて彼に向き直る。


「アタシを婚約者にする約束、忘れてませんよね?」


「ああ。今日から俺がお前の婚約者フィアンセだ。本日中に正式な書類に起こして、後日お前の父親を呼び出しサインをさせる。それで俺達の婚約は正式に成立する」


 リーロンの宣言に、マリアはパッと顔を明るくした。これでマリアの身柄は実質的にサティサンガ家の物になるため、ダントルトン家の家名を背負う必要は無くなった。レキャットの言葉を信じるなら、あとは入学試験時に好成績を残して特待生になれば学費も免除される。学費無料で学校で学べるだけ学び、学業が忙しいと言い訳をして徐々にダントルトン家からフェードアウトしていけば、マリアは実家から完全に解放される。


「じゃあ、アタシこれからはサティサンガ家のお名前を使っても構わないんですね?」


「ああ。上手く・・・使えよ?」


「勿論です!」


 マリアはニコリと笑い、万歳して喜んだ。ここまでの苦労がやっと報われた気がして、晴れやかだ。


 このまま上手くやって、学校に在学中に卒業後の職場を見つけて就職し、卒業後はメリンダと二人でどこかの借家でも借りて生活する。贅沢は出来ないだろうけれど、女二人楽しく暮らせるはずだ。元々マリアもメリンダも浪費家の性質は無いし、メリンダは家事は完璧、マリアも前世で培った家事能力があるから二人暮しでも心配も無い。メリンダが“侍女”から“同居人”になれば、彼女もマリアへの執着に似た崇拝が薄れて徐々に他の人間に対して関心を持つようになるかもしれない。未来は明るい。 

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