6話:男爵令嬢はお疲れの様子です

1️⃣










 サティサンガ家の庭は漸く静寂を取り戻した。同時にこれでやっとリーロンは命を狙われる心配が無くなったことになる。


 マリアは顔に付着した血を袖で拭い、「ありがとうリコリス」と刀に告げる。2mの長尺の刀は元の大蛇に戻り、屈んだマリアをその身体で取り囲むように這いずる。マリアはそんな大蛇の鼻孔に礼としてキスしてやれば、大蛇はやっと満足してズルズルとガゼボのタイルの上を這いずり、マリアの足に木でも登るように登ってきた。スカートの下に潜り込むようにした大蛇はそのままマリアの身体に戻ってきて、やっと終わったとマリアは大きく息を吐く。


「蛇が、消えた……!?」


 しかし、“テスト”が終わりでも顔合わせが終わった訳では無い。マリアはもうひと頑張りと気合を入れて、ラウドに向き直りヘラりと笑う。


「消えてないよ、ラウドくん。ちゃんとここ・・に居る」


 マリアはそう言ってペラりとスカートを持ち上げ、太腿でいつも通りマリアの身体を好きに移動しているリコリスを見せた。途端ラウドはバッと顔を逸らし、「何してるんだオマエは!」と怒鳴る。マリアは眉を顰めたが、ラウドが耳まで真っ赤になっているのを見てあ〜と納得した。同い歳ぐらいの少年に、異性の際どい生足は毒だったらしい。


「ごめんね〜、ラウドってばうぶだからさ、女のスカートの下なんて見慣れてねぇんだよね」


「つかオマエもんな簡単にスカート捲るなよ……仮にも貴族の娘なんだからよ……」


 笑いを堪えながら弁明するアインと、呆れたようなツヴァイ。マリアはそれを鼻で笑い一蹴する。


「そんな“仮にも・・・貴族の娘”に人殺しさせたのはどこの誰かしら? 十個も生首を持ってこいなんて命じておいて、今更『淑女らしくしろ』なんて馬鹿げたこと言わないわよね?」


「つーか、さっきの武器何? あんなふざけた武器で戦うなんて思わなかったんだけど」


「あら、ウルミという武器をご存知無い? あの刀はそれによく似た性能を持っているただの刀ですわ」


 そんなごくごく平穏かつ平凡な会話を交わしながら、マリアは最後にリコリスで斬り落とした首を、並べられた九個の首に加える。不自然に空いていた空欄が埋まって、丁度十個、 キチンと整列するように並べられた首に、大嬉びしたのはアインだった。


「も〜超最高! マジで全員ぶっ殺すとは思わなかったわ〜、アインちゃん感激」


「感激したなら、テストで“合格”くれますよね? この“テスト”、考えて用意したのアインさんでしょ?

 依頼主がアナタなことは、あの殺し屋のオジサンも言ってたし。きっと提案者だから自ら指揮を執ってゴロツキとの交渉にも挑んでしょうね」


「ご明察。頭弱そうなのに、案外賢いじゃん。それとも、察しが良い・・・・・の方が相応しいかな?」


「どちらでも構いませんよ。それで? どうします?

 まさかここまで献身的にあくせく駆け回って、そちらの提示する条件を満たしたのに『やっぱ無し』なんて言われたら、マリアちゃん暴れちゃうかも」


 マリアはそう言って、ガゼボのテーブルの上に置きっぱなしにしていたベルトを再び腰に巻いた。一騎打ちの際に邪魔だったから外したが、無いとそれはそれで落ち着かないのである。

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