4️⃣

『本当はもっと上手・・にやる予定だったんですよ? なのにこの発情オジがおいたをするから……これだから脳味噌下半身直結男はダメなのよ……猿じゃないんだから、理性を持たなきゃ……』


 彼女は剣山のようになったタラシの死体に溜息をつき、矢を射ったであろう仲間にヒラヒラと愛想良く手を振る。即座に弓を武器とする男がそちらの方角に矢をつがえたが、標的を見つけられないらしく弦は引き伸ばされただけである。


『——{ツイン}、おいで』


『は〜い!』


 木の上から音も無く少女の隣に誰かが飛び降りてくる。


『双子……?』


 俺は思わず呟いた。


 その二人は、全く同じ容姿をしていた。髪の結び目も顔のパーツの位置も洋服も全部一緒。違うのは彼女達の瞳の色の変わり具合だけだ。


『なんだ、殺る気か!?』


『そりゃあ勿論。

 アインに騙された可哀想なチンピラさん達。残念だけど今日ここで、御命頂戴致しますね。さぁさぁ狩りハンティングと参りましょう。行くよ{ツイン}。準備は?』


『もち、OKだよマリア。可愛いボクの甘えたちゃんマ・カリネットのために、賊の首を並べてやろうじゃないか』


 そこからは“凄惨”の一言に尽きた。『殺られる前に殺ってやる』と二人に飛び掛かった男達三人は、まるで踊るようにそれを躱されそれと同時に首筋を掻っ切られた。吹き出た鮮血を一滴も被らなかった、あの“マリア”と呼ばれた女は『あと六人』と俺達の方を見る。そこからはひたすらに逃げた。“勝てない”と、本能が悟った。長年の勘だ。


 あの女共は人を殺すことをなんとも思っていない。そりゃあ俺も人殺しだ。生きるために殺してきた。だがあいつ等は違う。“生きるため”なんかじゃない。“命を奪う”という感覚すら持っていない。あの女共に慈悲なんて求めてはいけない。


 入る時はあんなに簡単だった庭は、気付けば迷路のようになっていて何処へ行っても花と草と木しかない。どちらが北でどちらが南かの方向感覚すら掴めない。


 アインが裏切ったのか、それともバレたのか。知らない、今はどっちでもいい。ただこの状況を上手く逃げ切らなければならない。

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