3️⃣

『あの方が手配された方々ですよね? お待ちしておりました。本来ならばもてなしの一つや二つすべきなのでしょうが、場合が場合なので何一つ差し上げられない非礼をどうぞ御赦しください』


 ここで、俺達はこの少女がアインに派遣されて来た女なのだと理解する。


『ご主人様のお使いで来たのか? 御苦労なこった』


『えぇ、まぁそんなところです。ご準備の程は、よろしいでしょうか。どうぞ気を抜かれぬようお願いします』


 少女はジッと俺を見た。そしてまたニコリと笑う。その瞳孔にハートの紋様が浮かんでいるのに気付いたが、指摘するより先に十人の中で一番の女好きがこの少女に歩み寄り、腕を掴む。その性格から名付けたのか“タラシ”と名乗った、腕力自慢の反社崩れだ。


『っ、……? なにを……?』


『嬢ちゃん、可愛い顔してるじゃねぇか』


 腕を乱暴に掴まれ痛みに顔を歪めた少女は、自分より随分背の高い男を見上げ首を傾げる。その仕草すら、タラシは興奮した様だった。


『仕事の前に一発ヤらせてくれよ。慣れてるだろ?』


『……アタシと手合わせ願いたい、ということですか?』


『カマトトぶってんじゃねぇよ。こういうことだ、よ!』


 タラシは少女を引き摺るようにして地面に押し倒すと、その上に跨った。俺達はやれやれと肩を竦める。セックス狂いもここまでくると病気に思える。


『っ、待って、駄目!!』


 少女は己の現状に気付いたのだろう、先程の落ち着いた淑女らしさは消え必死になって叫んだ。


『お願い、まだ殺さないで! まだ駄目なの!』


『おいおい、命乞いは早ぇんじゃねぇの? まぁ相性が良かったらこのまま俺の女にしてやってもいいぜ?』


 タラシの言葉に、ゲラゲラと笑う他の殺し屋達。俺は肩を竦めたが、視界の端にキラリと何かが光ったのを見て、反射的にその場から後退った。


『まだ駄目よ、殺さないで{アロー}……——!!』


 彼女が叫ぶのと、タラシの後頭部から背中に至るまでに雨のように矢が突き刺さったのは同時だった。タラシの下から軽い動きで抜け出た少女は、一瞬にして物言わぬ屍と化したタラシの姿にあちゃ〜と言いたげに額を押える。


『おい!! てめぇなにしやがる!! 俺達はアインに雇われたんだぞ!?』


『へぇアインに、それはいいことを教えてくださいましたね、どぉもありがとう。そんなアタシは今し方そのアインとそんな彼のご主人様のリーロンからアナタ達を全員殺してくるように命じられたんですよねぇ』


 最早取り繕っても仕方無いと思ったのか、やれやれと肩を竦め、女はニンマリと笑った。

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