ep:1-5

 トワは1週間後に隣国に行くからと令嬢のやるような特訓を受けていると聞いた。

 町娘には酷なことで、それはそれはご愁傷様と他人事のようにしていれば、レックスから呼び出されると意外なことを命じられた。


「ユーリ、おまえもトワと共に隣国へ行ってくれ」


「はあ?それはまたなんで……」


「聞いたぞ?おまえ、令嬢の教養も教えられるそうじゃないか。トワがユーリが立ち方を教えてくれたって喜んでいたからな」


 ユーリはしまったと苦虫を噛み潰したような顔をする。確かに、一度困っているトワに助言をしたことはあった。


 しかし、それだけ。本題はきっと別にあるのだろう。ユーリはレックスの思惑を読み取り、仕方ないというように息を吐く。


「要は、トワのそばで件の男より遅れをとるなってことですよね?わかりましたよ」


 レックスは頷いて、今後の流れを簡単にユーリに告げた。トワをギルと共に護衛すること。それを聞いてユーリは顔を歪める。

 とりあえずその場は文句も言わずにやり過ごして、執務室を出た。


 深くため息をついて廊下を歩くと前から噂の人物。ギルが歩いてくる。こちらに気づくとゴミでも見るような目でユーリを見た。


「挨拶もまともにできない臣下をそばに置くなんて、殿下もどうかしてるな」 


 そう嫌味をユーリが言えば、ギルもすかさず口の端を上げて言葉を返した。


「トワさんと殿下の敵とは仲良くする気もないんでね」


「敵ねえ……そんな輩に頭を下げてまで、トワを守れだなんて、相当切羽詰まってるのか、よほど大事なのか……」


 ユーリに意図はなかった。しかしバカにしたように聞こえたのだろう。ギルは壁にユーリを追いやり、両腕で逃げ場をなくすように塞ぐ。


「俺はあんたを信用してない。怪しい真似をしたら、殺す」


「おー、怖。敵意剥き出しですね、野良猫野郎?」


「は?」


「元々野良の癖に、お情けでもらったエサで満足してる奴って意味だよ」


 ギルの目が鋭い目つきに変わった。ユーリはヘラヘラ笑って煽る。ギルの右拳がユーリの腹を殴った。

 ぐっ……と痛みに顔を歪めると、その場に疼くまる。


 おいおいまさか殴るとは思わなかったとユーリはギルを睨みつけるが、ギルの目は冷ややかなまま。


 こいつと護衛役なんて悪夢だろと思いながら、ユーリは己の軽率な振る舞いを呪った。

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