見破られる真実

ep:2-1

 一週間後。隣国へトワ、ギルと共にユーリは参った。護衛ということでしっかりとした佇まいで振る舞えば、トワだけでなくギルも驚くようにこちらを見ている。


 ユーリからすればトワはまあわかるが、ギルが騎士のように品位ある振る舞いをしているのに驚いた。あんなに粗暴そぼうぞくみたいな雰囲気なのに……本当に謎の奴。


 トワが城の者と話している間、こっそり見ていれば目が合う。咄嗟にらしてしまうユーリにギルは淡々と言う。


「堂々としろ。仮にもトワさんの護衛だろ、あんた」


「……」


 ギルの言葉は最もだ。何も言い返せないユーリにギルは用は済んだとばかりに離れた。


 夜会を明日に控えた夜。夜会の次の日にやっと国に帰れる。ユーリはうれしさと不安な気持ちを胸に宿した。


 未だにくだんの男の情報はない。それとなく城の衛兵にもメイドにも話を聞いてみたが何一つ得るものがない。

 いや、あった。最近貴族間で何やら怪しげな取引の噂があること。その話を巳早は思い出して、何かを書き記す。背後にギルがいることも知らずに、覗き込まれた。


「また悪さでも企ててんの?」


「うわっ……いたのかよ」


「そりゃ同じ部屋だからいるでしょ」


 そう、ここにきて2人は同室だった。トワの部屋と続き部屋になっている客室の一つに今まで共に寝泊まりしていた。

 着替える際に女だとバレないように気を遣うのが面倒だったがそれももうすぐ終わる。


 何より、今は構っている暇はない。ユーリはさっさと何かを書き記すと小さく畳んでポケットにしまう。そして、すぐさま持参した化学の実験道具をだして何やら作業を始めた。


「なに?毒薬でも作るわけ?」


「はっ、作ったらおまえに一番に試してやるよ」


 嫌味に嫌味で応戦して、ユーリは集中して作業にとりくんだ。ギルは怪訝そうにジッと眺めていた。



 翌日の夜会。トワの支度が済むと部屋に入るギルとユーリ。ユーリの姿をみてトワは不思議そうにする。


「ユーリその格好どうしたの?」


 ユーリは白いローブを見に纏い、姿を隠していた。隣のギルもこれまた冷たい眼差しで見てくる。理由を説明する前に……事態が動いた。


 暗がりの部屋、月明かりだけで照らされたその状況で突然の来訪者。顔を見た途端、ユーリはあの男だと確信し咄嗟にベッドシーツを剥がして目隠しする。


 こちらの視界も遮られたことにギルが反論しようとしたが、ユーリの行動は早い。トワの頭に薬をかけて瞬く間に白髪を漆黒に染めた。それを見て驚くギルとトワ。

 更にユーリはローブを外して頭を出す。その頭は白髪になっていた。


「ユーリこれはいったい……」


「それシャワー浴びたら元通りになるから。とにかく、おまえは黙って身を潜めてろ」


 目隠しの一瞬でこれほどの行動力。ギルが面食らうとユーリはその隣でまるで自分がトワのように演じてみせた。暗がりの効果もあり何より白い髪が目印なったのだろう。


 案の定、男はユーリをトワと思い連れ去った。複数人で来ていた相手。その際にしくじりギルは相手に気絶させられ、トワもおとなしく身を隠すしかなかった。


***


 その後は予想通りだった。男たちに連れ去られ、窓もない箱型の馬車に乗せられる。

 噂を聞いた時からもしもの時を想定して動いたが、予想は正しかった。



 貴族間の闇取引は昔から健在だ。オークションみたいな会場に奴隷になる人間を連れて行くとかなんとか。高値でやり取りできる、庶民には手っ取り早い稼ぎ。

 件の男もきっと、これをするんだろうなと思っていた。身なりもそうだが、金にガメツイ印象があったから。


 予想通りの展開に笑いが込み上げてくるユーリだったが、バレると面倒なので怖がる素振りを見せる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る