第6話

「お腹が減った。早く食べたい」


私達は笑いながら食堂でお祈りをした後、みんなで食事を摂った。今日、山であった事、教えてもらった事を神父様やシスターに話をする。ローニャも負けじと畑の手伝いをしたと話をしている。

それを二人はニコニコと聞いてくれている。


……ここに来て良かった。


私は心の中でそう思った。温かな二人に守られてローニャも私もすぐに村に馴染めた。今でも両親の事を考えると涙が出てしまうけれど、二人は私達の第二の両親であることは間違いない。


「そうだ、ナーニョ、今日は貴女の九歳の誕生日でしょう? ポイの実を用意したわ」


!!!


驚いた私。あの日の光景を思い出して涙が止まらなかった。


「……シ、シスター、ありがとう」


私は首に下げてある指輪をギュッと握りしめた。

きっと神父様やシスターは知らなかったと思う。私がポイの実が好きだった事や誕生日で母がわざわざ用意してくれていたポイの実。


あの頃の幸せだった自分。父と母とローニャで笑い合っていた誕生日。父と母の死。色んな物を思い出して苦しくなる。


「ナーニョ? 大丈夫?」

「シ、シスター。ごめんなさい。ちょっと昔を思い出してしまっただけ。もう大丈夫。ありがとう」


きっと前に居た孤児も同じような事があったのかもしれない。神父様もシスターも慣れているようだ。ローニャも心配そうに見ている。


私はいつまでも泣いていてはいけない。


後ろを向いてもお父さんもお母さんも戻ってこない。グッと指輪を握りしめた後、ポイの実を食べた。


甘酸っぱくて大好きな味。この味はきっと忘れる事が出来ない。


こうして私の九歳の誕生日は教会で祝われた。




この日から両親の事を思い出す余裕もないほど朝から晩までお手伝いと勉強に励んだ。もちろん魔法の練習もした。


神父様が心配するほど毎日魔力を使って自分の限界まで頑張った。妹はそんな私を見て思うところがあったのだろう。


自分も六歳になったら魔法の勉強がしたいと言い始めた。神父様はローニャの気持ちを汲んで六歳の誕生日にヒエロス(怪我回復)とサーロー(土質改善)、ヒーストール(浄化)の指輪を貰って大喜びしていた。


因みに私が持っている母の指輪はターフィルの指輪。水刃のナイフが相手を刺す。魔力の多い私が使うと一本ではなく数本出す事が出来た。


高い集中力が必要で全てを的に当てるには訓練が必要だった。


妹が持っている父の指輪はスーフィルの指輪。こちらは植物の棘の付いたナイフ。練度により毒が込められるようだ。ローニャには扱いが難しいため絶対に使わないように私を含めた大人達全ての人に止められている。


一度興味本位で使おうとした時に魔力を吸い取られるような恐怖を感じ、無理やり指輪を指から抜いたようだ。


それ以降、本人も扱いが難しい指輪だと自覚しているようで決してネックレスから外そうとはしない。


今はサーローの魔法で色々な土質を改善しているようだ。この改善の仕方は他の指輪と少し違い、使用者の意識で改善の仕方が変わるのだとか。育てる植物により向いている土質が違うらしく、考えなければ植物が上手く育たない。


ローニャは毎回村のお爺さん達に助言を乞いながら魔法を使っている。その事がローニャの教育にとても合っていたようでローニャは思慮深くとても賢い子になっていると思う。


神父様はそんなローニャを見てこの村で少しでも勉強が出来るようにと村役場や神父様の持っている本を読ませたり、時折来る行商人達から本を買い与えてくれた。


もちろん私も一緒に読んで勉強しているが、ローニャほど熟読出来てはいない。姉として誇らしいと共に少し寂しい気持ちになった。

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