第5話

教会の朝は早い。シスターと食事を作った後、皆でお祈りをして食事を頂く。 


その後、ローニャはシスターと部屋の掃除。私は村の人達と畑の手伝いやヒエロスを唱えて一日の疲れを回復する。この村も私達がいた村と同じで大人は仕事に出て年寄りは子供たちと畑仕事をする。


ローニャはやはり村の出来事が原因になっているのかシスターから離れる事が出来ないみたい。私達は神父様から毎日少しずつ勉強を教えてもらっている。

 文字や魔法の勉強を真面目にしている。


「ナーニョは魔力量が高いから大きくなったら街へ出て魔法使いとして働けそうじゃな」

「神父様、みんな魔法が使えるけど、魔法使いは何が違うの?」

「高度な魔法が使える獣人はほんの一握りしかいないんじゃ。異界の穴を閉じるグリスコヒュールなんかはその一つじゃな」

「神父様、私、皆を守るために勉強を頑張りたい。神父様のおかげでヒュールヒュールも上手くなった。上位の指輪を手に入れたらこの村全体を包んで守りたい」


「ナーニョはいい子じゃな。ここまで育ててくれた両親にも感謝せねばならん」

「はい、神父様。私、お父さんやお母さんのためにも頑張ります」


私は将来優秀な魔法使いになることを心に決めた。


神父様の話では上位の魔法使いになれば指輪は文字を刻まなくてもいいらしい。その代わり土に魔法円を描いて手を付く。

指輪を通して魔力を流し、魔法を使うのだとか。そうすれば毎回指輪を交換する事がないので楽なのだとか。


大勢を転移させるための魔法はこの方法が取られている。国王軍がすぐに到着したのもこの転移魔法のおかげらしい。

もちろん自分一人なら指輪で十分だし、上位の指輪であれば二、三人は移動可能のようだ。


ただ、上位の指輪は高価な物。魔力量の関係もあるので一般人は未だに馬車を使うのが殆どだ。


私も魔法使いになれば魔法円を自在に使えるようになるのではないかと教えられた。魔法円は描く事がまず難しい。何度も練習しているが、今の私にはまだ魔法を発現させるに至っていない。


回復魔法は毎日使う事で魔力の扱い方も慣れてきた。やはり私は魔力量が多いので他の人が使う魔法に比べ、効果は高いようだ。





教会に来て一年が過ぎた頃、私達も随分村に馴染んできたと思う。


最初はシスターから離れられない状態だったローニャも今では畑の手伝いをする事が出来るようになっている。私ももちろん畑の手伝い。

村には私と歳の近い子供が三人いて女の子はサーシャとモヒ。男の子はシュー。みんな優しくてすぐに仲良くなった。


「ナーニョ、今日は山に山菜取りに行くんだって」

「楽しみ! 私、行ったことないの」

「小さい子は連れていけないけど、私達くらい大きくなればいいみたい」

「おい、迷子になるんじゃねぇぞっ」


私達は笑い合いながらお爺さん達に付いていく。今日は山に行くということで腰にナイフを下げて籠を背負ってみんなで山に入る。


「サーシャ、モヒ、シュー、ナーニョ、お前達はずっと喋っておくんだぞ? そして声の届く範囲から広がってはいけないからな」

「なんでー?」

「森には獣がでるからだ。喋っていれば向こうが気づいて逃げてくれる。自分たちの安全のために喋り続けることが大事だ。喋っていればお互いどういう状況かも分かるだろう?」

「そっか。わかったー」


そうして村の人達と一緒に山に入った。魔物が出ない時でも獣は出る。獣人とは違い、四足歩行で知能は低い。


獣人と獣は昔同じ種類だったが、進化の過程で人間寄りになったものと獣の形態を取り続ける事で今のようになったのだろうと言われている。


獣は獣人に対して襲ってくることはないが、縄張り意識の強い獣は襲い掛かってくる危険がある。あと、発情期の場合も危ない。獣人は人間に近いため発情期はない。


私達は探検のように適当な木の棒を広いガサガサと枯葉を叩いたり、振り回しながら散策していく。


「ナーニョ、これがシュロの葉だ。傷薬になる。覚えておくんだ」

「ケムおじぃ、分かった!」

「これは腹痛の時に煎じる、これは頭痛の時に頭に乗せる葉……」


年寄りは子供たちに知識を教えていく。皆が魔法を使いこなせる訳ではない。こうして生き抜くための知識を年寄りから受け継いでいくのだ。


きのこは何処に生えやすいのか、何故全部採ってはいけないのか、ナーニョ達は一つひとつ教えてもらいながら籠にきのこや山菜を入れていく。


「ナーニョ、これはお前の頑張った分だ。神父様と食べろ」

「ケムおじぃ、ありがとう」


無事に山から降りてきた私達は採ってきた山の恵を分けて教会に戻っていく。


「神父様、シスター、ローニャ、ただいまっ! お土産を持ってきたよ」

「おぉ、これは美味しそうじゃな。晩御飯がたのしみじゃ」

「美味しい料理を作るから待っていてね」

「ローニャも手伝う」


こうして私達は厨房に入り、シスターの料理の手伝いをする。シスターはキノコを焼いて山菜を茹でてソースを掛けると、いい香りが厨房内に広がり、ローニャのお腹が鳴った。

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