第7話

時は過ぎてナーニョは十五歳になった。


来年は成人を迎え、教会を出ていく歳。私は魔法使いになろうと考え、大きな街に出るつもりだった。


神父様もシスターも賛成してくれた。今は連絡も取っていないが、先祖返りした祖母を持っているのであれば名前を出すだけで国王軍の受付は話を聞いてくれるだろうと神父様は言っていた。


もちろんローニャも一緒に街に出る。ローニャも今年で十一歳。身体はまだ小さいが殆どのことは一人で出来る。後一年。その間にする事も多い。





私は王都から来た若い聖騎士様に連れられて王都の教会へと向かった。魔法使い志望の私は国王軍の試験が必要になるため、神父様かシスターと一緒に王都へ向かうのだが、神父様もシスターも高齢のため、教会本部に要請を出した。


教会は神父様の要請を聞き、若い聖騎士を一人案内役に向かわせたのだ。


「ナーニョといいます。よろしくお願いします」

「私の名はファンダム。国王軍の試験を受けるまでの間、君を王都の孤児院に案内するまでの護衛に就くことになった。よろしく」


ファンダム様は犬の獣人のようで私とは違って犬の特徴が濃い。彼も先祖返りなのだろうか。疑問に思いながらも聞くのは失礼かなと思い、黙って馬車に乗り込んだ。


村は王都から左程離れていなかったのか馬車で三日ほどで着いた。


初めて見た王都。行き交う人々の多さに圧倒される私。


「ナーニョ、案内する。こっちだ」


ファンダム様はキビキビと歩き始めた。今の私はシスターと同じ服を来ているので見習い修道女のように周りから見られているのだろう。ファンダム様は国王軍の拠点である大きな建物の前に来た。


「ここが国王軍の拠点だ。ここで手続きをした後、試験を受ける。合格発表まで数日掛るが、その間は今から行く教会に泊まる事になっている」


私は頷いた後、そのままファンダム様の後を歩いて行く。王都は街も沢山あって露店が所狭しと並んでいてまるで迷路のよう。気を抜けばすぐに迷子になってしまいそうだ。


ここで私とローニャは暮らしていけるのか心配になる。


露店街を通り抜け、雑貨店を右に曲がり一本道を進んだ先に孤児院があった。そこはとても小さな孤児院でここの神父様も村の神父様と同じくらい高齢の方だった。


「ハナン村から来ましたナーニョです。国王軍の試験を受ける間、よろしくお願いします」


私は神父様に頭を下げた。


「パロ神父は元気かのぉ? アイツも大分ジジィになっただろうな。カカカッ。まぁ、ここはなーんも無いがいくらでも泊っていくといい」

「ありがとうございます。ファンダム様、お連れ下さり、ありがとうございました」


私はファンダム様にお礼を言うと、教会に戻るついでだと言って国王軍の受付まで連れて行ってくれる事になった。


私は荷物を神父様に預けた足で国王軍の建物の中にある受付まで連れて行ってもらった。


私はお礼を言うと、帰りは行きに降りた場所でハナン村行きの馬車を探すのだと教えられた。


ファンダム様と別れた後、建物の中に入っていった。





軍服を着た人達が往来している中でシスター服を着た私。悪目立ちをしているのは仕方がない。


「若いシスター、国王軍に何か用かな?」


リスの獣人と思われる軍人に声を掛けられた。私はビクッとなりながらも答える。


「あ、あのっ。国王軍の魔法使いになりたくて試験を受けに来たんです」

「ふ~ん。そっかぁ。魔法使いかぁ。難しいけど、まぁ、頑張って?受付はあっちだよ」

「有難うございます」


私の言葉に興味を失ったようだったが、リスの獣人にお礼を言って指差した方向に歩いていった。


「ここで魔法使いの試験が受けられると聞いたのですが」


私は不安になりながら受付の軍人に聞いてみた。


「あっ? あぁ……。君、孤児? そういう子多いんだよねー。殆どの子はなれないからさ、君も諦めた方がいいんじゃない? 君、可愛いから飲み屋の仕事とか人気が出そうだし、あっちに応募したほうがいいんじゃないか?」


試験をしたくない雰囲気の受付に泣きそうになる。


「で、でもっ。神父様から君は魔法使いの素質があるって。どうしても試験を受けたくて、ハナン村から来たんです」

「あーそういうの真に受けるタイプの子? あれは子供騙しだから。そういうの信じちゃ駄目だよ」

「で、でも! 祖母は先祖返りをしていて……。両親はマロ村で亡くなったので今は孤児だけど……」


一生懸命泣きそうになりながらも試験を受けたい一心で説明する。すると受付が別人のように変わった。


「君、もう一度言ってくれ」

「……? 祖母は先祖返りをしていて、両親はマロ村で亡くなって、ハナン村の教会で育った、のです……?」

「君の祖母の名前は分かるかい?」

「祖母の名前はサーナス・カーシャルです」


祖母の名を聞いた途端に受付は奥へと走っていった。


どういう事だろう?


神父様の言う通り祖母の名を出した途端に態度が変わった。やはり先祖返りは優遇されているのだろうか。疑問と不安が入り混じりながらも受付の人が戻ってくるのを待った。


しばらくすると受付の人は一人の老婦人を連れ現れた。


「貴女がナーニョ?」

「は、い。ナーニョ・スロフ、です」


私は震えた。


その老婦人は猫耳を持ち、母の面影を映していたからだ。彼女も私を見るなり驚きを隠せないでいるようだった。


「ナーニョと言うのね。サーシャは、こんなに可愛い子供を産んでいたのね。何故連絡してこなかったの?」

「……国王軍の豹の獣人さんが伯父さんに連絡を取ってくれたようなのですが、私達を家に迎えるのは難しいと言われてそのまま隣村の教会で孤児として生活してきました」

「……そう。ガロね。息子のことは後でいいわ。とりあえず、試験を受けに来たのでしょう?」

「はい! 受けさせてもらえるのですか?」

「えぇ、試験は厳しいわよ?」

「受けます!」


どうやら祖母は今でも軍で魔法使いとして働いているようだ。そして母が亡くなった事も知らなかったのかもしれない。


長年孤児としてローニャと教会で暮らしてきた私にとっては族は居ないものだと思っていたし、今も思っている。


ローニャと二人で生きていくためには私が試験に受からないといけない。


その覚悟だけでここまできた。


今はただ試験を頑張るだけ。

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