第41話秋芳洞と秋吉台

 翌日からはいつもの山口で過ごす夏休みが続いて、時々海水浴に出かけたり、叔母の家に遊びに行ったりして過ごしていたが、この夏のメインイベントである、山口を代表する観光地の一つ、秋芳洞と秋吉台へのドライブが行われた。叔父と父と私たち姉弟で出かけた。母と妹は実家でお留守番となった。

 中国自動車道を通って、美祢インターで降りて秋芳洞へ。洞窟内に入るのは私は初めての経験であった。観光案内所で料金を支払った後、パンフレットを受け取って入洞。大きな洞窟に向かって遊歩道が続いている。この時見知らぬオッサンが

「おーい見てみぃ。イワシがおるぞー」

と言っているのが聞こえた。姉と私は

「海やないのに、イワシがおるわけないやん」

と二人で言っていた。実際洞窟から流れ出る川を泳いでいたのは、清流に棲むヤマメやイワナであった。どう見たらヤマメやイワナがイワシに見えたのであろうか。

 そのイワシのオッサンの後に続いて私たちも秋芳洞の中へ。秋芳洞の中には黄金柱や千枚皿など、自然が作り出した造形美ともいうべき景観が広がっていた。全長はわかっているだけで10キロ以上あるそうであるが、一般公開されているのはおよそ1キロほど。そのほかは一般人が行くのはかなり険しい工程だという。

 私は初めて見る地下に広がる広大な景色に圧倒されるような感じを受けながら、次々と現れる洞窟内の様子を観察していた。これがかつては海の底にあり、何億年もの歳月をかけてここまで移動したという。石筍ひとつとっても、何百万年と言う気の遠くなるような長い年月を費やして構成されたというのを知ったとき、人間の存在は改めて小さなものに思えた。その圧倒的スケールを誇る秋芳洞を出て、再び通ってきた道を引き返して車を停めた駐車場へ。駐車場には叔父の愛車であるスバルレオーネが待ってる。ここから秋芳洞の上に広がるカルスト台地、秋吉台へと向かう。秋吉台カルストロードは車窓のところどころ石灰岩が露出しており、草原の中で草をはむヤギのようであった。秋吉台の自然を眺めながら、長者ヶ森駐車場に到着。駐車場には観光案内用の説明板が設置されていて、かつてはこの大地は深い海底の底だったということが説明されていた。それが地殻変動とプレートの移動によって隆起し、今の姿になったという。このため、かつて海に生息していた太古の生物の化石が数多く発掘されており、三葉虫やアンモナイトの化石などが多数見つかっている。地球の歴史の一端を垣間見たような気がした。駐車場を後にして、秋吉台を下って大正洞入口の駐車場でお土産を買った。星田や永井、今田や柳井、福田たちへのお土産に選んだのが、地元で産出される石灰岩を使ったキーホルダー。この辺りは石灰岩が豊富に埋蔵されており、たくさん採取されるので、工業用に加工されるものも多く、セメント材料としても重要だということであった。ここで産出される石灰石は美祢線沿線にある石灰石を加工する工場に運ばれて、セメントの材料として美祢線経由で各地に運ばれていた。この当時は美祢線にも数多くの石灰石専用列車が運転されており、宇部線の宇部岬駅から船積みされて運ばれていた。今では宇部興産が専用の道路を使って運んでいるので、美祢線も宇部線もローカル線になっているが、このころは貨物輸送で活況を呈していたのである。

 お土産を買って、再び中国自動車道で母の実家に帰ると、やはりまるちゃんの盛大なお迎えが待っていた。しっぽを振りながら

「早く散歩に行こう」

と誘っているようだったので、まるちゃんを連れて散歩へ。30分ほど歩いて家に帰ってからは風呂の焚き付け。冬なら日の番をしていれば暖かいので助かるのであるが、夏の日の番はかなり暑い。汗だくになりながら風呂を焚きつけて、風呂が沸いたところで入浴を済ませて、9人で食事。私の記憶にあるかぎりでは、このころが一番にぎわっていたころである。

 そしてお盆休みが終わると両親は妹と一緒に大阪に先に帰っていった。私たちは夏休みが終わるギリギリまで山口に滞在することになったのである。この時も姉と二人で一緒に帰ったのであるが、それだけ二人ともなれていたということであろうか。

 そして、夏休みが終わると、大阪では一番にぎわうあのお祭りがやってくる。

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