第40話皆に見送られての帰省

 8月最初の土曜日に、子供会主催の盆踊り大会が開催された。炭坑節や河内音頭など、昔からよく知られている民謡が流れる中、櫓の上では太鼓が演奏されていた。その櫓の周りを私たちが踊りながら回るのであるが、出店もたくさん出ていて、子供たちにとってはうれしい夏祭りであった。私は姉と妹と一緒に歩いて行って、踊りの輪の中に参加していた。

 そして翌日は山口に帰省する日。星田と柳井、永井が新大阪駅まで見送りに来てくれた。

 新幹線が発車するまで、他愛のない話をしながら過ごしていた。やがて発車のベルが鳴って、私たちが乗ったひかり号は静かに新大阪駅を発車していった。私たちが乗ったのは新神戸・姫路・岡山・福山・広島と、広島から先各駅に停車するタイプであった。今のダイヤからは想像できないかもしれないが、当時は新神戸を通過する列車も数多く運転されていたのであるが、おそらく当時はほかに乗り換え路線がなくて、アクセスが良くなかったからであろうか。今では神戸市営地下鉄に乗り換えると、神戸の中心まで乗り換えなしで行ける。

 長い六甲トンネルを過ぎて新神戸駅に停車したあと、再び長い神戸トンネルを抜けると、遠くに明石海峡が望める。姫路駅を過ぎるとちょうどお昼なので、新大阪駅で買い込んだお弁当を食べると眠くなってきてしばらく眠ったようである。私が目を覚ましたら福山駅到着前であった。福山を出発して三原からは海沿いを走る呉線と、瀬野八を超える山陽本線と、在来線は二手に分かれるが、新幹線は両者の中間付近を一直線に結んで広島駅に向かう。広島駅到着前に安芸トンネルを通過して広島駅に到着。ここでかなりの乗客が入れ替わる。先を急ぐ人は速達タイプのひかりに乗り換えて、速達タイプのひかり号から、山口県内の駅で下車する人が乗ってくるのである。やがて山口県内に入り、定刻通りに下車駅に到着して、山陽本線で母の実家の最寄り駅へ。ここからはタクシーに乗って実家に向かう。祖父母の家に着くとまるちゃんが盛大に熱烈な歓迎をしてくれた。

 その熱烈なお出迎えが終わって、家に中に荷物を置いて、祖父母に

「じいちゃん、ばあちゃん来たよ~」

と挨拶。祖父母も

「あれまぁ。また身長が伸びたんじゃないかね」

といっていた。このころの私はすでに身長が160センチを超えていて、クラスの中では一番身長が高かった。しかし、さきに成長期を迎えていた姉の方が一時的に身長が上回っていて、私より数センチ背が高くなっていた。

 挨拶が終わると、さっそくリードをもって、まるちゃんの散歩。小学5年生になると、さすがに一人で散歩に行っても、まるちゃんに引き倒されるということはなかったが、それでもまるちゃんの引っ張る力は強かった。散歩の途中で、祖父母の家の近所に住む同い年の子の家に持っ立ち寄って、挨拶をして回った。一緒に遊ぶ約束をして、一旦帰った後再びその子の家に向かった。小学校のすぐ前を流れる用水路にはシジミがたくさん生息しているので、シジミを取りに行こうと誘って、家からビニール袋を持ってきて、一緒に小学校に向かった。用水路に降りて、堆積した砂を掘り返すとあちこちにシジミが埋まっており、手で砂をどけるだけで簡単にとれた。1時間ほどシジミを掘っていると、持ってきた袋いっぱいになって、とれたシジミが乾かないように袋の中に水も入れて、綺麗に洗って、その日の晩はシジミ汁を食べた。大阪でもスーパーなどでシジミを見かけることはあったが、とれたてのシジミを食べるというのは無理な話で、やはりとれたてのシジミは新鮮でおいしかった。

 その晩は天気が良くてきれいな夏の夜空が広がっていたので、星空を眺めながら涼んでいた。大阪とは違って、近くに田んぼがあり、家が密集しているわけではないので、夜になると涼しい風が吹き抜ける。祖父母の家には双眼鏡があったので祖眼鏡で天の川などを眺めつつ、スターウォッチングを楽しんでいた。

 スターウォッチングが終わって家の中に入ると、風呂に入って眠る時間。大阪だと近くを走る電車の音や、車のエンジン音が聞こえてくるのであるが、祖父母の家では夜になると夏の間は帰るの大合唱が聞こえてくる聞こえてくるのは自然の音だけ。大阪の騒がしい夜とは全く違うと、毎回山口に帰省する度に感じていた。

 そして、山口に帰省している間の一番の楽しみな日がやってくるのであった。

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