第35話増井が抱えていた家庭問題
その模型製作から数日たったある日、例によって増井が私に強烈なタックルを仕掛けてきた。私は今田や福田と話をしていて、増井がいること自体に全く気が付かなかったので、まさに不意打ちを食らった状態で、今田や福田が見ているその前で私はバランスを崩して倒れこんで、左側頭部を教室の床で強打した。一瞬意識を失いかけて、今田が先生を呼びに職員室へ。福田が私を保健室に連れて行ってくれた。倒れた衝撃で私は左半身に電気が走ったようなしびれを感じていたが、福田が保健室に連れて行って、教室戻るころにはしびれが取れた。保健室の永田先生が
「何があったの?」
と聞いてきて、教室で起きたことを伝えた。そのことで永田先生は楢崎先生に
「増井君の家で何か問題が起こっているのではないか」
と話したそうである。私が増井からタックルを受けて倒れたということで、教室内は騒然となっていたそうである。当然このことながら直接増井の家にも連絡が行ったはずで、増井も楢崎先生からなぜタックルをしたのか厳しく問われたようである。それで明らかになったのは、増井の家庭がうまくいっていないということであった。離婚する・しないでもめているということで、それがもろに子供に影響を与えていたということであった。ただ、増井の家がうまくいっていないということと、私には何の関係もないわけで、私が増井からタックルを受けて倒れこんだということは、私の母にも連絡が行っていた。
母からの知らせを受けて、父も翌日会社を休んで、母と一緒に学校にやってきた。そして増井と私、楢崎先生と増井の母親、私の両親で今回のことについて話をした。当然私の両親からは激しい抗議が上がり、
「なんでうちの子がこんな目にあわされんとならんのか」
と言っていた。それに対して増井の母親からは謝罪の言葉などなく、子供が勝手にやっただけで、自分には何の関係もないという返事であった。楢崎先生が
「関係ないって、あんたの子が何の関係もないリンダ君にタックルして、危うく大けがするところやったんですよ。幸いけががなかったからよかったですけど、子供がやったことに対しては親が責任取らなあかんのとちゃいます?これがもし、後遺症が残るような大けがでもしてたらどないするつもりやったんですか?」
などと増井の母親に対して厳しい言葉を投げかけていた
「いくら家庭がうまく行ってないからと言って、子供が勝手にやったことやから自分は関係ないということでは済まされんことですよ」
と、そこまで言われて、ようやく増井の母親も
「謝ればいいんでしょ謝れば。うちの子が迷惑かけてどうもすいませんでした‼」と、いかにも誠意のない謝罪をするので、私の両親は怒りを露わにして
「ちゃんと謝りなさいよ。あんたの家のこととうちの子は何の関係もないやろ?」「もう謝ったからいいやろ‼何度も本当にしつこい‼」
このやり取りを聞いていて楢崎先生が
「被害者に対してしつこいとはなんやねん。そんな謝り方はないやろう!非常識な。増井おまえはどうなんや?すまんと言う気持ちがあるんか?どうなんや‼」
というと、おもむろに口を開いて
「すまんかったと思ってる」
と言っていたが、私には心の底から済まなかったと思っているようには見えなかった。なぜなら私に謝罪をしては騙すということが今まで何度も繰り返されてきたから。その一方で、なぜターゲットが私だったのか?学校の成績や家庭内不和が理由であったのであれば、クラスメイトの誰でもよかったのではないか?その点がいまだにわからない私である。
そそれからしばらくは増井も私にタックルをしてくることはなかったが、私に対する暴言は相変わらず続いていた。こんな奴をいちいち相手にするのも疲れるし、馬鹿らしいので、私は相手にしないようにしていた。増井の挑発に乗れば、私も同じ穴の狢になると思えたからである。しかし増井は私が反撃するのも、無視して相手にしないのも面白くないらしく
「言われて悔しかったら言い返してみいや」
などと言ってきたので、私は
「俺は別に悔しくもないし、お前ことを取り合うだけバカらしいから相手にしないだけ」
と言うと、その受け答えが気に食わないということでさらに挑発を続けてきたが、永井や今田たちに
「お前さ、そんなことして何になるねん」
などと言われていた。この時はまだ私は本格的にいじめのターゲットにされていたというわけでもなく、後にいじめの加害者となる渡部のほか、甘田百合・久保裕子・中井一美・湯川薫・清水一人は、まだこの当時は私に危害を加えるということはなかった。一緒に運動場に出て遊んだり、クラスの班活動もみんなで協力してやっていけてた。これが6年生に進級したと同時に地獄のような日々が始まるようになるとは、想像すらしていなかった。と言うか、できなかった。
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