第36話いいがかり

 6月になって、梅雨に入ると雨の降る日が続く。ゴンも雨の降る日は散歩に行くのを嫌がっていたが、運動させないわけにもいかないので、雨のそぼ降る中散歩に出かけたら、途中で福田と会った。「散歩の途中か?」というので、私は「そう。今からちょっと歩いてくるわ」そう言葉を交わして別れた。傘を差しながら歩いていると雷鳴がとどろき始めて「まずい。早く帰ろう」そう言って散歩を途中で切り上げて帰った。家に帰ってしばらくすると激しい雷雨となり、ゴンも怖がるので、この時は玄関に入れて、私と姉がそばについていてやった。まるちゃんの時もそうであったが、やはり犬にとっても雷と言うのは怖いのであろう。激しい雷雨は1時間ほどでやんだが、外に出てみると道路には大きな水たまりができていた。そして空を見上げると大きな虹のアーチがかかっていた。大きな虹を見ながら「なんかいいことあるかも」そう思いながら家に戻った私である。

 激しい雷雨がやんだら、蒸し暑さが倍増する。大阪の住宅事情と言うのは、隣近所との間が非常に狭く、家が立て込んでいるので、熱気がこもりやすいのである。この時はまだ一般家庭にクーラーと言うのはまだ高価なもので、私の家にも寝室に一台あったが、よっぽど暑い時でないとつけることはなかった。だがこの日ばかりは本当に暑くて、寝ている間汗がしたたり落ちる状態で寝付けなかったので、クーラーを付けて寝た記憶がある。

 梅雨の晴れ間が広がった7月初め。ゴンの散歩に出かけて歩いていると、ふと増井の姿を見かけた。私は正直「嫌な奴と出会ってしまった」と思ったが、別に自分が悪いことしているわけでもないので、増井の前を堂々と通ってやった。増井は何か私に話しかけてきたが、私にあえて無視した。正直本当にかかわりたくなかったのである。翌日学校に行くと増井が私に「お前、昨日無視しやがって。めっちゃむかつくわ~」と言ってきたので、私は「お前を相手にしたくないねん。なんで嫌がらせして来るような奴話しかけられて、話さなあかんねん」そう言って私は増井とのかかわりを持つことを拒否した。私の怒りを込めた対応に、後にいじめ加害者となる渡部や久保は「あんたちょっとやりすぎなんちゃう?」などと私に言ってきたが、私はどうしても増井を好きになれなかった。最初にタックルをしてきたときから、こいつとはうまくやっていけそうもないな。そう感じていた。クラスの女子も増井が今まで私にどのようなことをしてきたか見てきていたはずで、巨漢から繰り出されるタックルによって、私は大けがを仕掛けたのである。そのことを考えると、どうしても許せなかった。

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