第29話自分の部屋

 しんちゃんの家から帰ると姉が帰ってきていた。

「卒業式はどんな感じやった?」

と聞くと姉は

「やっぱり最後の日ということで、皆泣いとったわ」

と話していた。来年姉は卒業生として、私は在校生代表として卒業式に参加することになる。

 春休みを迎えて、私はよくゴンの散歩に行っていたのであるが、学校が休みであるため、散歩の途中でクラスメイトと会うこともあって、クラスメイトの皆からもゴンはかわいがられていた。マメシバなので成犬になってもあまり大きくならないので、可愛いらしくて愛嬌があり、子供でも比較的飼いやすい点も人気があった理由なのかもしれない。

 そしてこの時期に大きく変わったことというと、それぞれ私と姉に自分の部屋を与えようということになって、姉は以前祖父が使っていた離れをそのまま使うことになり、母屋と離れをつなぐ形で家を増築することになったのである。家の増築には留兄ちゃんが大工をしているので、留兄ちゃんに設計や見積もりをしてもらって、3学期が始まってすぐに増築工事が始まった。私も学校が休みの日は建材の運び出しなどを手伝っては、新しい部屋が完成するのを楽しみにしていた。多分両親としては、大きくなったのでそれぞれに部屋を与えた方がいいのではないかということになったのだろうと思うが、今になって考えれば、ずいぶんと大きな買い物だったのではないかと思う。この増築に合わせて、トイレとバスルームもリフォームして、3か月ほどで完成した。このころの留兄ちゃんは建築士として、あちこちで仕事を抱えていて、忙しい仕事の合間を縫って私たちの部屋の築工事を行っていたので、時間がかかったようである。増築工事が済んだのは、私が5年生に進級した4月の終わりであった。

この増築した部屋も、住んでいた家も、1984年3月末には取り壊されることになってしまうとは、まだこの時は夢にも思っていなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る