第23話再び飯盒炊飯

 ゴールデンウィークが終わって普段の生活が戻ってきて、3年生から習い始めたそろばんも当初の初級から8級へと進み、3桁から4桁の足し算や引き算の問題を解くようになって、徐々に計算式も長くなり、難易度も上がっていった。この時姉とは2級ほどの差があり、姉は6級へと進級していた。まだまだ姉の背中を遠くに感じた。姉に少しでも追いつこうと、土曜日の夕方もそろばん塾へと通っていた。そのため、どうしても土曜日はつぶれてしまうため、土曜日の放課後は、あまり友達とも遊べなくなっていた。そのため、日曜日の朝に宿題を済ませて、昼から遊びに行くことが多くなっていた。

 そんな5月の終わり、再び飯盒炊飯が行われた。この年も私たちが向かったのは大阪府南部の箱作海岸。この行事のため臨時列車が毎年運転されるのである。箱作駅で全員下車して、海岸まで少し歩いて、見えてくる1年ぶりの海岸。私たちは上級生になったので、カレーを作るための準備やかまどを作ったり、薪の用意をしたり、1年前とは違ってやることはたくさんあった。そしてこの年もみんな火起こしに大苦戦していた。そんな中、私は手早く火を起こして、野菜の用意も済んで、食事を済ませて、片付けも素早く済ませて海で遊んだ。同じ班の皆と貝殻を集めたり、小さなカニやヤドカリを捕まえたり、思い思いの時間を過ごしていた。やがて帰る時間となり、電車の中で熟睡して学校に戻った。


 学校についてメンバーの点呼を取り、全員がそろっていることを確認して帰宅。姉と一緒に帰った。帰ってゴンのところに行くと、、ゴンは嬉しそうに私のかおくぉぺろぺろ舐めて

「お帰り~」

と言っているようであった。ただこの日は私も姉もつかれているだろうからということで、母が散歩に行ったようである。

 ゴンのところから家に入ると疲れていたのか、すぐに寝てしまって、目が覚めるといつの間にかベッドで寝ていた。恐らく父がベッドに連れて行ってくれたのだろう。そのまま夕食を済ませて、早めに寝た記憶がある。 

 翌日は学校が休みなので、ゆっくり寝てようと思っていたら、妹に顔をぺちぺちたたかれて目が覚めた。母が私を起こすように妹に行ったのであろうか

「兄ちゃん起きぃや~」

そう言って私の顔をたたくので

「起きるからやめんかーい」

そう言って起きると、いつもより遅い朝食。本来なら学校に行っている時間である。

 妹は4月から保育園に通っていて、保育園に母と出かけるのを見送って、私は姉と家の中で遊んだり、近所の駄菓子屋にお菓子を買いに行ったりしていた。母は当時父とともに新聞配達をしていて、さらにはパートもしていて忙しく、この日は私と姉が妹を迎えに行くことになっていた。私たちが迎えに行くと妹も笑顔で

「お姉ちゃん、お兄ちゃん帰ろう」

と言って帰る準備を始めて、姉が先生からの連絡事項を聞いている間、私は妹の帰宅準備を手伝い、それが終わると妹を真ん中にして歩いて帰った。やがて母もパート先から帰って、母と姉は夕食の準備。私は妹の遊び相手をして、父の帰りを待っていた。夕方父も仕事を終えて帰宅して夕食。風呂から上がって、父が聴いていたラジオドラマを私たちもベッドに入りながら聴いていたのであるが、そのラジオドラマは結構ホラーな要素も入っていて

「恐いなぁ」

と思いながら聴いていた。

 そして数日たったある日、父が仕事から帰ってきて

「仕事の関係で、熊本に9月の終わりまで出張せなあかんようになった」

と言っていた。私は熊本のどのへんか聞いたところ、玉名というところだといっていた。そこには父が勤めていた会社の工場があり、そこで人員が不足しているため、応援に行くのだという。私はだいたいどのあたりにある街なのか、知っていたので

「ずいぶん遠いところに行くんだな」

と思った。玉名に行くには、当時は新幹線で博多駅に出て、博多駅から鹿児島本線を走る特急有明に乗って、大阪からは5時間以上かかるところにある街であった。この当時はまだ、私は九州に行ったことがなかったので、どのようなところなのかいろいろと想像していた。熊本で思い浮かぶのは、阿蘇であった。地理の本や図鑑などでしか見たことがなかったが

「きれいなところなんやろうなぁ」

と思っていた。そうして夜は更けていった。

 翌日から通常の授業が再開され、近所の子供たちと一緒に登校する日が続き、父が熊本に出張に行く日がやってきた。私たちは学校が休みだったため、新大阪駅まで見送りに行った。やはり仕事とはいえさみしい感じもした。この日から母が一人で大阪の家で、私たちの世話をしながら家庭を切り盛りする日々が始まったのである。私が一番心配していたのが、父が出張でいなくなって、もし母の身に何かあったどうするんだろうということであった。母は朝早くに新聞配達に出かけて、帰ってきて朝食の準備を済ませると、家に中を片付けて夕方までパートなど、かなり忙しい毎日を送っていたので、私たちも自分でできる範囲で手伝いをしていたが、かなり重い負担になっていたのではないかと思う。そうしているうちに梅雨も明けて夏休みがやってきた。

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