第17話SLやまぐち号

 そんなある日、姉と私は両親に言われるままに電車に乗った。ふだんなら電車に乗って、どこかに出かけるときは、必ず行き先を教えてくれるのであるが、この時は父も母も行き先を教えてくれなかった。

「どこに行くんやろ?」

と二人で言っていた。やがて電車は小郡(現在の新山口)駅に到着。ふと、黒く巨大なものが目に入った。その黒くて巨大なものが停まっているホームに着くと、それはSLやまぐち号であった。SLは人気アニメ「銀河鉄道999」で知っていたが、実物を目の前で見るのは、私が幼稚園に通っていたときに、今日との梅小路で見て以来で、客車に乗るのは初めてであった。

 父が出してくれた指定席の切符の席に座ってしばらくすると、やまぐち号は威勢よく汽笛を鳴らして小郡駅を出発。温泉街から少し離れたところにある湯田温泉駅、山口市の中心部にある山口駅と過ぎて、宮野駅を出ると私たちが乗っているやまぐち号は山岳区間へと入っていく。山口線最初のトンネルを抜けて仁保駅に到着。ここで一息ついた後、瀬戸内海側と日本海側を隔てる分水嶺を超えるため、険しい峠道をゆっくりと進んでいく。機関車から聞こえるドラフト音や蒸気を吐き出す音が聞こええ来て、先頭で奮闘するC57-1の息遣いが感じられる。山口線で一番長いトンネルを抜けると下り坂に転じ、それまでの重たい足取りから軽やかなジョイント音を刻むようになり、篠目駅に到着。そして長門峡駅を出発すると、徳佐盆地の中を軽快に走っていく。リンゴ畑が見えてくると徳佐駅に到着。ここからは県境を越えて島根県へ。津和野盆地へと駆け降りる風景は山口線の車窓の見どころの一つである。

 津和野駅について、改札を抜けて森鴎外生家や昔ながらの街並みを散策して歩いた。清流津和野川の河畔に降りて遊んだり、時折通過する山口線の列車を見たり。時間になって駅に戻って、山口線の列車に乗車。時刻表を眺めてみると、列車の本数の少なさに驚かされる。1本乗り過ごすと次の列車まで2時間前後待たなければならないのである。大阪なら、5分待てば日中でも次の電車がやってくるのに。同じ鉄道でも全く違うと実感した私である。

 津和野へのSLの旅というサプライズが終わって帰宅するとすでに夕暮れであった。家に帰るとまるちゃんが勢いよく飛び出してきて、熱烈に私たちを出迎えてくれた。これから私たちが祖父母の家に行くと、このまるちゃんの熱烈ラブコールがお約束となった。姉と私は帰ったその足でまるちゃんの散歩に行き、帰ると夕食ができていて食事をしながら今日見たSLの話をしていた。

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