第12話妹のレストランデビュー

 正月に山口に帰っていた私たちは、冬休み最後の日に帰ってきた。父が新大阪に迎えに来ていて、3人で帰ったのであるが、3人がかりでもかなりいっぱいの荷物であった。妹とは2週間ぶりの再会であったが、やはり体が一回り大きくなっていて、さらに破壊魔に磨きがかかってた。

 翌日からは3学期が始まり、2月に私は8歳の誕生日を迎えた。この誕生日は家族そろって近所のレストランで祝ってくれて、妹にとってはレストランデビューとなった。私は確かパフェを食べたのではなかったかと思う。そして両親や姉が

「誕生日おめでとう」

と言ってくれる。決して贅沢ではないが、幸せなひと時であった。

 ささやかな誕生日のお祝いが終わって、学校に行くと川野先生が

「誕生日おめでとう」

と言って、手書きのバースデーカードを手渡してくれた。川野先生はこういった記念日をとても大切にする先生で、私の誕生日も祝ってくれた。私はその先生の気持ちが嬉しかった。


 私の誕生日が終わると、冬山登山がある。1年生と2年生は、学校からバスに乗って槇尾山に登ることになっていた。さほど高い山ではないが、登山口から山頂までは子供の足で2時間くらいかかるであろうか。この日は姉は3年生ということで、私たちよりも標高の高い金剛山への登山が控えており、姉弟そろって登山の装備で学校に行った。学校に着くとバスに乗ってそれぞれの目的地へ。普段見慣れない風景が後ろへと流れていく。次第に山が迫ってきて登山口に到着。急な山道を息を切らしながら登っていく。途中で疲れてしまって、先生に手を引っ張られながら登る子もいた。そして汗をかきながら山頂に着いて、皆で昼食。さすがに寒さで冷たくいなっていた。昼食後はしばらく自由時間があり、私は山頂から見える景色に見入っていた。山頂からは遠く海も見えた。

 やがて下山時刻になり、再びクラスごとにまとまって山を下りていく。バスの駐車場に着いて、皆の点呼を取って、全員がそろっているのを確認してバスが出発。皆疲れていて眠っている子が多く、車内は静かであった。私もバスの揺れが気持ちよくて眠っていたようである。

 目が覚めたらバスは学校に到着していて、姉たちも帰ってきていた。学校からは姉と二人で一緒に帰った。家に着いて夕食を食べて入浴を済ませるとあっという間に寝てしまっていた。

 翌日は疲れもあるだろうということで、学校は休み。遅くまで二人とも寝ていたようで、起きたらいつもなら学校に行く時間はとっくに過ぎていた。遅い時間に朝食を済ませて、その日は家の中でおとなしくしていたのではないかと思う。

 それから3月の終わりを迎えて、妹が1歳になった。この日も誕生日のお祝いで家族皆でレストランに行って、誕生日のお祝いをした。このころになると妹も伝い歩きからよちよち歩きに変わり、一人で家の中を動き回るようになっていた。妹は洗面台の中にすっぽりとおさまるのがお気に入りでニッコニコの笑顔を振りまいて洗面台の中に入っている写真が今も残っている。そして家から父と私たち子供3人で自転車で30分くらいのところにある公園に行って遊んでると、大学の写真部のお姉さんたちが私たちを見つけ、妹をモデルに写真を撮らせてほしいといってきた。父も快く応じ、何カットか撮影して、お姉さんたちが一番かわいいと思った写真が後日送られてきた。その写真は額に入れて今も大事に飾ってある。モノクロで撮影された写真は、今となっては私たちが大阪で暮らしていたことを証明する数少ないものとなっている。

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