第11話初めての冬の帰省

 やがて年末年始の休みに入り、私と姉は初めてお正月を山口で迎えることになった。

 母の話では、周りを山に囲まれているため、寒さが厳しいということであった。私たちが山口に帰省する際、いつも降りる駅は比較的温暖なところなのであるが、祖父母の家はかなり内陸にあるため寒さが厳しいのだそうである。新幹線を降りて祖父母の家に着くと、確かに大阪よりも寒い。おまけに暖房設備というと火鉢であった。そのほかにはこたつがあるくらいで、家の中でも厚着をしないと寒さを感じる。

 そんな中、私たちが任せられたのが風呂焚きである。祖父母の家は当時、五右衛門風呂だったために風呂を沸かすのに、外で薪を燃やさなければならなかったのである。当然火の番をするのだが、これから山口に帰省した時の意日課となった。

 正月を山口で過ごしていると、晋兄ちゃんがやってきた。私たちは晋兄ちゃんが持ってきた凧をあげに小学校の校庭へ。強い風に乗ってぐんぐんと空高く昇って行った。寒くなってきたので家に帰って、風呂を沸かして冷えた体をあっためて、夕食後眠りについた。翌日は近くの山の山頂にある神社に初詣。山頂ということで麓よりもさらに寒く、車を降りると身震いがするほどであった。境内は深い森で、どことなく神秘的な感じがするところであった。感じで言うと、スタ時をジブリ作品のとなりのトトロに出てきそうな、そんな森であった。

 その神社で家族の健康を祈って、家に帰った。山頂が寒かったので家に着くと火鉢に直行。ちらちらと燃える木炭のいい香りがした。この火鉢の火を利用して魚や肉を焼くのである。この日は叔父が買ってきたギュウモツを焼いていた。ミノやハツやタンなどが食欲をそそる香りをたてている。やはり炭火で焼く肉は最高である。 

 そんなちょっとした贅沢な味を楽しみながら、山口での正月は過ぎていった。そして大阪に帰る日がやってきた。私たち以外にも、大きな荷物を抱えた人たちがたくさん乗り込んでいた。初めて大阪以外で過ごしたこの正月。大阪にいれば、今宮戎神社や住吉大社の初詣の様子が中継されているのであるが、あの大勢の人でごった返す大阪の初詣とは違って、本当に静かな初詣であった。

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