第43話 何時の時代、どこの世界でも税金は悩ましい。


ああヤダヤダ。本当はこの話書きたくなかったんすよねっ(・谷・)

しかし払わない訳にも行かなければ書かない訳にも行かないのが税金のお話なのですよねぇ……ああ世知辛い……


思わず愚痴がでましたが、本編をどうぞ。




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「何か乳しぼりみたいな道具が鍛冶場にあった筈だ。アレがふいごだろ?」

「ありましたね。でも皮が古くて破けていて交換しないと使えそうにないんですよ」


「すりゃぁいいじゃないか。お前なら皮の加工出来るんだろどうせ?」


 軽い調子でぬけぬけと言い放ったマクエルに、クリンは一瞬沸騰しかけたが飲み込み、大きく息を吸って吐くと、ニッコリ笑って言う。


「ええ、勿論なめし方も加工の仕方も知って居るので出来ます。ええ、出来ますとも。どこかの誰かさんがその肝心の皮を取る為の道具をぶっ壊しやがって!!! くれやがりましたからね。ええ、出来るんですが皮が手に入れられないので、こんな遠回りして作らなくていい土器製の送風機なんて作っているんですよっ! 誰のせいとは言いませんがねっ!」


 にこやかに笑いながら青筋を立てると言う芸当を見せた五歳児に「うへ、藪蛇だ」と呟き、トマソンは「悪かったよ」と手を振って謝る。そのまま視線を移し、


「でも……確かこんな形じゃなかった筈だ。って、鍛冶場なんだからデケぇ鞴ある筈だろ?」


 巻貝の様な形の土器を見て眉をひそめていたが、ふと思い出し鍛冶場に目をやる。彼の目線の先には鍛冶場の水路に面した部分に水車が付いて居る。あの水車は鞴を動かす為にある筈だった。


 そう、実は鍛冶場にはちゃんと鞴を動かす為の動力となる水車が付いて居る。アレを動かせば態々鞴など作る必要は無い。——動かせればだが。


「ああ……ええまぁ、見たら少し傷んでいましたが簡単な手入れで直ぐに動かせそうだったんですけど……あれは……まぁ、ねぇ」


 やや言いにくそうに視線をそらすクリンに不思議そうな顔をするマクエルだが、直ぐにその理由に思い当たる。


「ああ、そうか。アレ動かしちゃうと税金がかかるのか……」

「ええと……まぁ。村長にもアレを使うと税金がかかるから動かすなと言われていますし、一応税金が払える物なら使ってもいいとは言われましたけど、ねぇ……」


 この世界には水車も風車もあるのだが、この国だけでなく近隣国では使用するのに税金が取られる。最初は製粉する事に税金が掛けられていたのだが、そんなのは黙って居れば誰にも分からないので、臼の個人所有が禁止され水車や風車の使用量として税金がかかるようになっている。

 ただし、料金は金銭だけでなく製粉した粉自体の何割かの物納でもOKになってはいる。


 その関係で、工業に水車も使う場合も「やろうと思えば製粉出来てしまう」ので、工業用農業用問わずに税金がかかる仕組みになっていた。


 他にも、パンを焼くための窯も個人所有だと税金がかかる為、共用施設のパン焼き場がつくられ、使用料と言う形で税金が取られる。


 なのでこの村の規模の人数が居る場合は近隣住人の分も纏めて一気に一週間分(この世界では十日分)を焼いて食べ繋ぐ事が多い。


 ただ、小型の竈なら税金は取られないので、町の人間か村でも裕福な家以外は基本大麦粥で、パンは特別な日か月に一回焼けばいい方である。


 以前の村? あそこは税金を取りに行くだけで人件費で赤字になる様な村である。この手の税とは無縁だが、そもそも麦を挽いたりパンを焼いたりするような余裕などない。




「それに、あれ鋳造炉用だから大きいのでソコソコの量の金属加工をしないと使うだけで大赤字なんですよねぇ」

「ああ、そう言えば鍛冶師の爺様も生きていた時に似た様な事いっていたなぁ。『纏まった鋳造が無けりゃ一々炉を使ってられねえ』とかなんとか」


「そうなんですよねぇ。まさか五歳で税金とか費用対効果で悩む日が来るなんて思いませんでした。世知辛いですよ……普通子供なら税金免除とか控除とか有っても良いと思いません?」

「普通の五歳は税金で悩まねぇんだわ、これが。つうかその歳で税金理解している方が世知辛ぇわな。お前みたいなのを普通とは言わねえのよ」


「失礼な。どこにでもいるぷりちぃな子供ですよ、僕」

「お前みたいなのが何処にでもいたら困るわっ!? お前さん少しは自分がおかしい自覚ないのかねぇ」


「残念な事に自覚しています。そしてもっと残念な事に隠して普通のフリしていたら多分今頃生きていられなかったと思うのですよ。なのでもう諦めています」

「ああうん、お前の話を聞く限りはそうなんだろうな。普通の子供ではいられねぇってのも、本当に世知辛ぇ話だよなぁ」


 何やら納得した様に一人うんうんと頷き出したマクエルを奇妙な物を見る目でしばらく眺めた後、クリンは唐突に思い出した様に、


「そう言えば、何か御用ですか? まさか石鹸せびりに来たわけじゃ無いでしょう? と言うか、こんな所に居ていいんですか門番二号? この前非番だったから今日はまだ仕事の筈ですよね。もしかしてサボりですか?」

「誰がサボりだ!? ちゃんと仕事中だよっ! 見回りの途中だ!」


「見回り? 門番が? それってやっぱサボりなのでは……」

「だからサボりじゃねえわ! そもそも俺は門番じゃねえっ! 自警団の団員でしかも専属!! 門番やるがそれだけが仕事じゃねえよっ! 見回りの仕事もあるの!」


 村を守る為の組織である自警団はあくまでも民間人の集まりで、殆どの団員は農業などの別の仕事の合間に自警団活動を行う。あくまで自主団体なので給料は無いのだが、トマソンやマクエルの様な「経験者」は専属で警備活動を行い、給料は村から支払われている。


 いわば村専属の雇われ警備兵の立ち位置がマクエル達で、団員は有事の際に協力すると言った関係である。


「へぇ……じゃマクエルさんって意外と偉い人だったりするんです?」

「偉いかどうかは知らないが……一応村の中じゃそれなりの権限はあるわな。例えば……村の設備を隠れてこっそり使っている奴から税金を徴収したり捕縛したりな」


 そう言って含みのある笑いをクリンに見せる。


「ああ、そういう……じゃ、もしかしてさっきの水車云々も引っ掛けとかですか?」

「まさか。ただの偶然だよ。まぁ、お前さんが悪戯をしていないかの見回りってのもあるには有るんだがよ」


 彼が悪びれた様子もなく言ってのけたのに、クリンは軽く肩を竦めて答えただけだった。その様子にマクエルはハッキリと苦笑いを浮かべる。


「本当、やりにくいガキなんだわなぁ。最初から予想してたろお前」

「あー……ええ、まあ……ハイ。割と入れ替わり立ち代わりで門番ズが顔出していますし。幾らなんでも変だと思いますよ。村長も気が付かれていないと思っているのか、偶に遠くから見ている時ありますし。さっきのアレだって結局僕が変な物作って無いかの確認でしょ?」


 結局の所、この村でのクリンはまだまだよそ者であり、得体の知れない子供でしかない。同情からとは言え村に住まわせても、面倒な雑用をお駄賃程度で引き受けたとしても、やはり信用されるにはまだまだ時間が掛かる。


 ひょっとしたら村から出て行くまで信用されないかもしれない。そんな子供を無条件で好き勝手にさせるわけがない。必ず何かしらの監視が入る筈だ。寧ろクリンからしたら監視されていない方がどうかしているとすら思う。


 我ながら物の見方がスレてるとは思うが、一カ月ちょっとの付き合いで他人を信用できる程に恵まれた人生はこの世界では送ってこなかったので仕方がない、とクリンは他人事のように考えていた。


「だよなぁ。気が付くよなぁお前なら。人がよさそうにして実は他人信用してないもんなぁ。お前の生まれの話は聞いたけど、本当どうやったらこんな用心深い五歳児に育つのかねぇ。マジで一度前の村が見たかったわ」

「あー……悪い癖だとは自分でも思うのですが、流石に拾われてからずっとアレコレ嫌がらせ受けて来ると、どうも外面を取り繕ってしまうんですよねぇ。この際お互い様と言う事にしときません? 貴方達も信用していないし僕も信用していない、と言う事で」


「オーケーオーケー、わかった降参だ。五歳児が腹の探り合いするんじゃねえよ、ったく。木工場の連中が昨日お前さんが一人寂しく泥遊びしてたって言うから、子供らしい所があるもんだと思って、村のガキ共の遊び場にそれとなく連れて行こうと思ったらよ……そうだよな、お前さんが普通のガキみたいな遊びする訳ないわなぁ」


 チラリ、とクリンが量産した粘土細工に目を向けながらマクエルは苦笑いを浮かべる。


「まぁ僕も子供なので遊びたい気持ちはあるんですがね。でもこの村に居られる時間も限られていますし、遊んでいる余裕はないのは確かですね」

「余裕のねえ奴は子供とは言わねえんだわなぁ……しっかし、レンガと鞴? だけじゃなくて色々作ってんなぁ。しかも五歳の作とは思えない完成度だしよ」


「……見ても構いませんがも壊さないでくださいよ? 今度壊したら僕我慢できる自信は全く無いですからね?」


「お前の中で俺はどれだけ信用ねえのよ!? 触らないから壊さねえよっ! ってかこの辺りじゃ見ない位に質のいい粘土じゃないか? 何かキメが細かいし……どこの土を使っているんだコレ?」

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