第41話 あなたはだあれ?

この回は非常に難産で、何度も書き直し完成後も気に入らなかったので後で書き直そうと思って差し替える気でいたのですが……何か続き書いていたら意外とココと辻褄が合っちゃったんですよね(´・ω・)


読み返してみたらそこまでも不自然でも無いし……うん。

差し替えた方がいいよ、と言う意見が無ければこのままでいいかな、なんて思っていたりしますです、ハイ。


と言う訳で、変更する予定は無いのでこのままお楽しみいただけたら嬉しゅうございますm(__)m



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 クリンが鼻歌交じりに粘土細工に勤しんでいると、


「……むむん?」


 前の村で鍛えられた気配察知に引っかかる物を感じる。作業の手を止めてそちらの方を見ると、水路沿いの反対側の道をこちら方向に向かって歩いて来る門番二号——もとい、マクエルの姿を発見した。


 門番が仕事なのに、こんな所をフラフラ歩いていていいのだろうか、と思いながら見ていると、マクエルもこちらが見ている事に気が付いた様だ。


 クリンが何か用事なのかと声を掛けようと口を開く。が——彼が何か言う前に、マクエルは少年を不思議そうに見て首を傾げた後、視線を戻してそのまま鍛冶場の方に歩いて行ってしまった。


「おろ、無視された? まぁ用事は無さそうだし、別にいいか」


 鍛冶場の方に向かって行ったのは気になるが、何も反応なかったので特に気にしない事にして、レンガ造りに戻ろうとする。


 だが、見るとは無しに見ていたマクエルが、鍛冶場の中を覗き込み、次いで小屋の方に向かってまた中を覗き込むその姿を見ておや、と思う。


「あれ? やっぱり僕に何か用なのかな。にしては何かスルーして行ったけど」


 はて、と思いつつ粘土を捏ねながらマクエルの様子を見ていると、小屋を覗き込んだ後に首を傾げ、キョロキョロと周囲を見回した後、こちらを見て一瞬だけ目が合うが直ぐに逸らし——ギョッとした顔をして再びこちらを見て固まる


「うん、なんだろう。一人百面相かな? あのオッサン実は結構暇なのかな……」


 などとクリンが呟いていると、硬直が解けたらしいマクエルがダッシュで少年の前までやって来た。


「こんにちはマクエルさん。先程から挙動「誰だお前―っ!!」不審で……はい?」


 取り敢えず挨拶をするクリンの言葉を遮って全力でマクエルが叫ぶ。意味が分からず、コテンと首を傾げていると、


「いや、その堅っ苦しい喋り方はクリンだけどなっ!? 本当に誰だよお前っ!!何か色々と白くなり過ぎだろう!!」

「はぁ……白い? 何が白いんです? てか僕以外の子供がここに居る訳ないと思うのですが」


「いやまぁ、そうなんだが……じゃなくてっ! 何だその髪の色! それにその肌の色も服もっ! そんなに白くなかっただろうが昨日までっ! 髪型も違うしよ!!」


 言われてようやく「ああ」と納得する。そう言えば昨日洗濯して風呂にも入ったんだっけ。石鹸で洗ったから色々綺麗になっているんだったな、とようやく思い至る。


「皆さんが余りにも汚いだとか薄汚れていると言ってくれるので、昨日服は洗濯して風呂にも入っただけです。それで『誰だ!』は流石に酷くないです?」

「ふ、風呂? 風呂なんてどうやって……いや、それだけでそんなに変わるか? それに服だってお前、頻繁に洗っていると言っていたよな。どんな洗い方したらいきなりそんなに色が変わるんだよっ!! もう別人別物だろうがっ!?」


 どうもこの辺りに風呂に入る習慣は無いらしく、クリンが見た限りでは前の村でもこの村でも風呂が有る様子が無い。ただ言葉は通じているので有る所には有る、贅沢な設備と言う位置づけなのだろう、とクリンは心の中で思う。


「風呂は……ほら、僕はこのサイズなんで、大き目の桶にお湯沸かして入れて薄めれば良いだけなので、そんなに湯量要りませんから。今だけ出来る芸当ですね」

「ああ、成程……子供なら確かにそれで十分風呂になるわな……だが髪とか肌とかの色は!? 前まではもっと髪は灰色っぽかったし、顔とか肌だって洗っても焼き出された浮浪者の方が綺麗だったろうが。それに,何だその艶っ艶の髪! ボサボサモサモサがお前の持ち味だったろ!」


「オーケー門番二号が僕をどんな風に見ていたかよーくわかりましたよ」


 クリンはジットリとした目つきでマクエルを睨み、プクッとほほを膨らませる。


「まぁ、どうやら普通に洗っただけじゃ汚れ落ちて無かったぽいんで石鹸で洗っただけなんですけどね。髪は……まぁ手製リン酢が思いの外効いたって感じです」

「石鹸!? そんな物どうやって手に入れた!? リンス? って何だよ。髪の毛に使う秘薬か何かかよっ!?」


「石鹸は勿論作りましたよ。無けりゃ作る。簡単な話です」

「作ったぁ!? いや、そんな簡単にお前……」


「時間が掛かるから面倒なだけで作り方自体は簡単なんで。リン酢は別に秘薬でも何でもないですよ。適当な薬草とか香草を煮て酢を混ぜるだけで作れる、お手軽な物ですから」

「いやいや、石鹸なんてなこの国じゃ作れなくて他国から輸入している高級品だぞ!? しかも作り方は秘匿されてるって話だ。何で作れるんだよっ!! そしてそのリンス? って奴だって本当にそれだけか? そんなので髪の毛がそこまで変わるのなら誰でも作ってんだろうがっ!?」


 ヒートアップしてくるマクエルを横目に、クリンは鼻で笑って首を振る。


「寧ろ何で作れないと思うのか謎ですね。その秘匿されているってのは恐らく原料とか香料とか配合とかの話でしょう。石鹸自体は作り方なんて簡単なものです。と言うか、多分マクエルさんだって自覚していないだけで作った事ある筈ですよ?」

「……は?」


「マクエルさん、竈で肉とか魚焼いた事ありません?」

「そりゃ勿論、偶に肉や魚は手に入るから焼いて喰うが」


「それなら、焼いた時に油が落ちて灰に混ざった物が出来るはずです。それが石鹸の原型です。この辺でも灰で服とか体とか洗うでしょ? その時にやたらと汚れが落ちる灰が有りますよね。それが理由ですよ」

「え、ええ? 灰と油? それだけで石鹸出来るの!?」


「ええ。まぁ大量に作ったり安定した品質を求めるのなら、流石にその程度では安定しない上に量が作れないので、多少手を加える必要がありますが基本はそれですよ」


 元々、何千年も前から石鹸など使われている。原理自体は極めて単純である。灰の持つアルカリ成分が脂と反応して界面活性作用を有する。それが原始的な石鹸であり、クリンがやったのはそれを効率よく反応させる為の手順でしかない。


「お……おお、マジかっ! そんな簡単に作れるのか……ん? なら何でウチの国では作らないんだ? それに簡単なら皆作って居ても不思議は無い筈だ」

「あ、それは簡単です。『大量に作るのが面倒くさい』からです。個人で消費する程度の量ならそこまでじゃないんですけど。沢山作ろうとしたら面倒なんです。脂なので何気に臭いですし。それと安定供給させられる程どこから油を集めるか、と言う問題もあります」


「あー……言われてみれば油を用意するのが大変か……」

「オリーブ油とかの植物油生産地なら兎も角、それ以外だと獣脂に頼るしかなくなりますし、そんなに脂を持つ動物も限られますし。それに油は他にも使い道が幾らでもありますからね。今回は運よくトマソンさんからファングボア脂もらえたので作れましたけど、それが無かったら作ろうとは流石に思いませんでしたしね」


「成程なぁ……作り方が簡単でも他の部分が面倒だから作られない、作り方が広まらないって事か……」

「後自覚していないだけで簡素な物はしっかり作って居るってパターンもありますよ。リンスも多分その手の物です。今回のリン酢にはローズマリーを使いましたが、それはこの辺に沢山生えていたからです。多分女性の方々は肌や髪の毛の手入れとしてローズマリーを煮た汁を利用してたりしていると思いますよ。じゃなければこんな村の端にまで野生化して生えている訳ないですし」


 言われて、マクエルは「そう言えば」と思い出す。彼の妻が時々ローズマリーを取って来て、鍋で煮ている姿を見た事がある。お茶代わりに飲む事が殆どだが、時折それを瓶などに詰めて保管している時がある。そしてローズマリー汁茶を飲んだ数日後は妻の髪が綺麗である事が多い事に思い当たる。


「お、おおっ……そういや嫁さんが時々変な汁を髪に塗ったくっていた事があったけなぁ! いい匂いでしょ、とか聞かれたけどなーんにも匂わんからそう言ったら殴られたな」

「……良く結婚出来ましたね、マクエルさん。まぁ、それはいいですが、やっぱりそうですよね。ローズマリーは昔から肌や髪に良いと言われていますから、やって居ない訳が無いと思ったんです。蓋を開けたら秘薬なんてそんな物ですよ」


 もっと手間と技術を掛ける所なら、多分ローズマリーから油を取り出すところまでやって居る。そして香油として様々な利用をしている筈。


 向こうでも異世界でも、似た植物があり同じような効果があれば同じ事をしない訳が無い。遅いか早いかの違いだけで、この程度の事は何も特別では無い、とクリンは考えていた。


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