トイレの〇〇さん

 学校の怪談で定番なのってさ『トイレの花子さん』だよね。うちの学校でも、似た怪談があるんよ。それが『トイレの〇〇さん』。花子さんなんて名前はない。名無しさんとか、まるまるさんとか呼ばれてた。噂はうちが小5のときに初めて聞いた。


「5年生教室のある3階校舎の女子トイレに出るよ」


上級生のからそう聞かされていた。女子トイレであるのは花子さんと変わりないけど、不気味なのは名前を知ってはならない。呼んではならないというもの。

ただ、肝試しの一環でその○○さんのいる個室トイレに向かって4回ノックした後


「あなたのお名前なんですか」


っていう遊びがあるらしい。まあ、答えてくれるかはわかんないんだけど......。

それで、うちらのグループでその度胸試しをすることになっちゃった。しかも夕方、部活をしていた子たちも少しずつ帰り始めたころだ。うちら5年生の教室がある校舎の3階まで階段でぞろぞろと向かっていった。その時はみんな刺激を求めたがる年ごろだったし、誰も咎めたりはしなかった。むしろ、みんな乗り気だった。


3階校舎の階段横すぐにあるトイレにたどり着くと、うちらのうちだれがやるかってのを決めることになった。もちろん、じゃんけんで。じゃんけんの結果、うちが行くことになってうちは不安になりながも女子トイレに入った。夕陽のオレンジ色が窓から差し込んでて明るいけど、なんだか雰囲気ふいんきがあった。


 緊張感が漂う中、うちは女子トイレの個室手前から2番目のトイレを4回ノックした。


「あなたのお名前なんですか」


言う言葉も完璧だ。だが、反応はない。あたりまえだ。あんなの、噂話に過ぎない。それに、名前のわからない怪異なんてどう呼べばいいんだって話だよね。他の友達はもっかいやれとか言ったけど、うちはもう反応ないから意味ないって突っぱねたんだよね。それで、トイレから出ようとしたときよ。さっきノックした個室のドアが勝手に開き始めたんよ。建付けがすごい悪かったのか「ギギーッ!」ってものすごい音がしてたと思う。


「うあああ!?」


「おまえ、責任とれよ!」


「じゃあな!」


口々にそう言いながら友達が走り去っていく。うちはちょっと遅れて彼女たちを追いかけるも、ドジっちゃって倒れちゃった。でも、別に誰かが来る気配はなかった。うちはきょとんとしつつも、またトイレの方を覗いちゃった。そしたらね、小さい女の子が立ってた。背中を向けてて、なんかボーっとしてる感じだった。


「そこにいるのは誰?」


私は、その子に話を聞こうとした。すると、彼女はゆっくり振り向いた。その顔には大きく黒々とした目のようなものと大きく開いた口が見えた。明らかに人の形をしていない。その子は私を襲うわけでもなく、ただじっと見つめて来た。

その眼差しは、私を憐れんでいるようだった。何も語らずともわかる、彼女とうちは同じなのだと訴えてくる。


「嫌だ。そんな目で見ないで! うちはあんたと違うし! うちは仲間はずれじゃないもん!!!」


それでも彼女は優しく、微笑んだような気がした。そして、スッと姿を消した。

その瞬間、血の気が引いていく。貧血のようにボーっとし始めて私はその場で座り込んでしまった。


「誰もいない、誰も助けてくれない......。彼女も同じ気持ちだったのかな......」


彼女の寂しさや、怒りのような感情がよみがえってくると共に、うちを置いてけぼりにした子たちのことを思い出した。グループなんて表向きは言ってたけど本当は違う。うちがカモにされてるだけ。いじめグループのこと、友達って呼んでるだけ。

今日だって、トイレの肝試しするのだって本当は嫌だった。なのに、無理やりやらされた。じゃんけんだって、公平とかいいながら彼女たちは最初から決めていたかのように同じ手を出してきた。


ぜんぶ、ぜんぶ......。誰にも言いたくなかった。でも、彼女は......トイレの〇〇さんにはそれが筒抜けだった。私を見た彼女の眼がそれを物語っていた。嫌な予感が自分の中でよぎった。うちは、涙をためながら自宅に戻った......。


トイレの探索をした次の日、うちを置いて行った子たちが失踪した。先生はみんなの前で疑いの目を駆けた。確かに前の日は一緒にいたものの、その後については知らないと本当のことを言った。それでも、先生や他の生徒はあまり信じていなかった。当然、トイレの話は伝えていない。その日、うちは職員室でも先生にねちねちと質問をされた。歯切れの悪いうちに、先生はため息をついて私を睨みながら帰っていいと追い返していった。うちは、少し嫌な気持ちになった。


 その日、うちはまたあのトイレの個室前に立っていた。あの友人たちが消えたのは、彼女せいだと睨んだからだ。そして、私はまた4回ノックした。


「昨日いた、クラスメイトたちどこにやったの?」


トイレから返事はない。だが、ノックが返された。1回、2回と断絶的に。当然、トイレに誰もいないことは確認済みだ。私は、○○さんがいると思い、話を続けた。


「今日、先生にも嫌なことされてさ......。もし、よかったら昨日と同じことやってくれる?」


うちの意思であるものの、自分で口走ったことに一瞬恐ろしくなった。でも、彼女とはなにか友達になれる気がした。でも、相手は怪異だ。いつか自分にしっぺ返しがくる。それでもいいと思った。瞬間、トイレからノックが返ってきた。うちはその音を聞いて、まずいことをしたかもしれないと思いつつ、学校を後にするしかなかった。


 その次の日、先生が交通事故で亡くなったという話を朝礼で聞かされた。うちのせいだと思った。同時に、謝っても仕方がないと思った。

 それからうちはあのトイレには行くことはなくなった。当然、あの子とも話さないと決めた。まあ学年も上がって、行くことがなくなっただけなんだけど。それでもいまだに嫌なことがあると、階段を降りた先のトイレにこもりたくなる......。


 結局、あの子は一体なんだったんだろうか。せめて、名前くらい知りたかった。



 

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【1話ごと完結】なんか短くて怖い話【みじ怖】 小鳥ユウ2世 @kotori2you

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