心霊写真のあいつ

 自分は、オカルト誌の専属カメラマンをやっています。正直にいいます。これまで掲載されてきた心霊写真は、自分が加工したものです。ですが、今回撮影したものは無加工なんです。つまり、本物が映ったんです。その写真は実際にお見せできませんが、幽霊が映っていたのです。撮影した場所は、心霊スポットとして有名な廃トンネルでした。


 トンネルの取材に行ったのはだいたい1か月くらい前でした。その日は少し小ぶりだったので、車を出してその場所へ向かいました。

自宅から大体2時間くらいでしょうか。例のトンネルにたどり着きました。自然が生い茂っている中、ひと際異様な雰囲気を醸し出す人工物がそこにありました。ただ、心霊スポットに遊び半分で来た連中のゴミが散乱していてあまり景観のいいものではありませんでした。


 自分は、カメラと三脚を手にトンネルの中を探索していきました。昼間だと言うのに、中腹の方までいくと光はなくトンネルについた電灯も機能していない状態で暗い印象がありました。スマホのライトでようやく足元が見えるくらいです。ある程度暗い場所まで入った後、自分は三脚を立ててカメラを設置しました。


心霊は後からパソコンで編集するのであとは乱雑な感じに取って、恐怖を演出すればいい。そう思っていました。シャッターのボタンを押そうとした瞬間


「......ん”ん”ん”ぁあ!?」


という、人のうめき声のような声が聞こえて来たのです。ただ、僕は雑誌のカメラマンなので、録音まではせずにその声の場所まで向かいました。すると、そこには段ボールを地面に敷いたホームレスのような方がさっきと同じ声を上げて寝ていました。

自分は肩を落として、少し離れてから彼が映らないように写真を撮りました。ですが、不思議な事に映した写真を見るとそのホームレスが立って映っていたのです。


そんな馬鹿な、と顔を上げるもそのホームレスは自分の後ろで寝息を立てて寝ていました。自分の身体の血の気が引いていくのを感じました。ですが、ここで引き返してはいけないという謎のプロ意識が芽生えて僕は逆にそのホームレスが映るように写真を撮ってみました。シャッターが切られたと同時に、そのホームレスのような男が


「う、う”う”う”う”......」


と何か苦しんでいるかのような声を上げてきました。自分はさっき撮った写真を確認しました。すると、そこにはホームレスが映っていました。ですが、寝ているにも関わらずしっかりとこちらを見つめていたのです。

恐る恐る、カメラから目を離してトンネルに目をやるとそのホームレスがこちらをじっと見つめていたのです。自分はさすがにまずいかもと思い、後ずさりをしながら元来た方へと歩いて行きました。ですが、彼の目線はずっと僕の顔を追って離れません。ゆっくり、ゆっくりと自分は車のある方へ歩いていきホームレスから離れようとしました。ホームレスはじわり、じわりとこちらへ腹ばいで進んでくるのが見えました。


 瞬間、自分は走り出しました。ダンダンダンという靴音がトンネル内で響く中、もう一つペタペタという素足で走っているような音がずれて聞こえてくる。さっきの男が追いかけてきていたのだと察しました。自分は、頑張って走っていきました。ですが、そこまで歩いていないはずなのに出口が見えてきません。焦りましたが、諦めたらここで撮影した写真のすべてが台無しになると考え必死に走りました。


 そして、目の前が少し明るくなってきたところで後ろから追いかけて来た足音がだんだん遠のいていくような音へと変わっていきました。諦めたのだろうと思い、少し走るペースを緩めて後ろを振り向きました。すると、目の前に口を大きく開いた男が鼻が当たりそうな距離に立っていました。自分は腰を抜かしてなんとかしてトンネルの出口に出ていきました。すると、男はそれ以上追ってこないでゆっくりと薄暗いトンネルの中へ消えていきました。再度トンネルの外観を撮影し、ようやく自宅へ戻ってきたのです。


 自宅へ戻り、最後に取った写真を確認するとトンネルの暗闇に足のない男が立っているのが映っていました。さらに、他の写真を見ると同様に足の映っていない男が映っていました......。もちろん、編集なんてしていません。あの男とも、知り合いでもありません。顔も見たことがありませんでした。



本物の心霊写真を自分はとても気に入り、その日のうちに会社へ渡すことにした。喜んでもらえるだろうとその写真の入ったデータを会社の編集長に渡すと、彼はいつもの調子でパソコンを眺めはじめた。最初は編集だろうと訝しんでいたが、だんたんと顔が青ざめて、最終的にはその写真データを返してきた。


「いや、本物はちょっと......。うちは、エンタメだから」


編集長が目を泳がして僕に写真データの入ったSDカードを渡してきた。

それでも今回分の給料がでないと生きていけない自分は食い下がってもう一度カードを提示する。


「でも、そういう雑誌だからこそ本物が映った時が面白いんですよ」


そう言ってなんとかしようとするも、編集長は神妙な面持ちで謝罪してきた。


には悪いけど、そのデータは使えないや......。ごめんね」


編集長は自分の背中を押して、部屋からそして会社から押し出していった。

かなり落ち込みました。傑作だと確信したのに、編集長がお蔵入りにしたその無念さで肩がずしんと重くなったのを感じた。

帰り際、歩いていると変なことに気付いた。会社へは自分一人で行ったのに、なんで編集長は「君たち」と呼んだのだろうか......。


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