間取り調べ

 最近流行ってるじゃないですか、変な間取り? みたいなやつ。俺もその流行りに誘われてこの間買ったばかりの一軒家の間取りを調べてみたんです。そしたら、図面にあったんです。  謎空間! 


俺はうきうきでその謎空間について不動産会社に聞いてみると


「書き間違いでした」


と言い出してきた。俺は少し建築系をかじっていたので、電気や給水の配線・配管用のスペースじゃないかと言っても、九官鳥やイのように書き間違いと繰り返す。俺は逆に、なにかあると踏んでその書き間違いと言われる個所を調べてみた。


「図面だと、たしかここだったよな?」


 書き間違いと言われている場所は、自宅2階の仕事部屋横にある空間だ。見よう見まねで俺は耳を壁につけて、コンコンと手でたたいてみた。すると、コンコンと返事が返ってきた。ここは家の端で、謎の空間を除けば外のはずだ。2階なんて誰も届くわけもない。一体、誰が叩いてきてるんだ?


「誰か、いるのか?」


問いただしてみるも、返事はない。聞き間違いじゃないかと思い、もう一度手でたたいてみる。何度もたたいても、返事が返ってくる。しかも、叩いた回数分同じ数だけちゃんと帰ってくる。


「いや、いるなら返事くらいしろよ!!」


俺はそのまま壁ドンする要領で、拳を壁に振り下ろした。だが、その返事はなかった。気味が悪くなったので、俺は家から出て散歩に出ることにした。数分、数十分家の近くをぐるぐる回り、近くの公園で少し時間を潰して気持ちを落ち着かせた。


「あの壁、壊してみるか? いやでも、ローンがなぁ」


贅沢な一人暮らしを手に入れるため買った一軒家。もちろん、ローンの返済はできていない。たかが壁一つ壊すのも勇気がいった。でも、あのまま放っておくのも気味が悪かった。だから、俺はその壁を取り壊すことにした。それで何もなければお終いだと思っていた。


「自分で外す分には、金はかからないからな......」


思い立ったがなんとやら。俺は帰る前にホームセンターに立ち寄ってカナヅチなど大工用具を一式買った。そして、すぐに家へ戻って例の壁の前に立った。大きく深呼吸して、金槌とノミを使って壁を破壊していく。


「うん?」


一瞬、顔の近くで風が吹き込んだ。やはり、この先には空間があるようだ。俺は無我夢中で壁を取り壊し続けた。カンカンと言う音が、閑静な住宅街に響くようで気が引けるが後には引けない。終盤に差し掛かるころにはもう小さな空間が若干見えていた。そして、人一人がぎりぎり入れるくらいの穴が開いた。


「懐中電灯あったかなぁ?」


防災グッズからわざわざ俺は懐中電灯を取り出して、暗闇広がる空間に当てるとそこにはお札がびっしりと広がっていた。俺は人生でここまで鳥肌が立った瞬間は無かったくらいに戦慄した。同時に、俺は笑みがこぼれていた。なぜかはわからない。期待していたものが見れて嬉しいのか、怖すぎて笑うしかなかったのか......。


「お、面白くなってきたな......」


空けた穴をもう少し広げて、俺はその空間へ入っていった。人一人が歩けるくらいの幅で、右手側にはお札の張られた壁があり、目の前には上へと続く階段があった。おそらく、屋根裏部屋ということになる。俺が聞いた時は、屋根裏部屋はないと聞いていた。おそらく、その屋根裏部屋に不動産会社が隠したい何かがあるのだろう。そう思ったとき、その秘密を暴きたい衝動に駆られて俺は階段を一段、また一段と上り始めた。


 上るたびにギイギイとなる階段のせいか、足取りがゆっくりとなっていく。天井裏が近くなり、腕の力でぐいと覗き込む。すると、そこには白骨化した死体が胡坐をかいて座っていた。あまりの唐突な出来事に、俺は言葉を失った。


「な、なんだ......。これは......」


白骨死体の座る床周りには、さっき下の壁で見たのと同じお札が張りつけられていた。だが、そのお札には呪いや封印のような気味悪そうなものではなく、祈願のような文字が書かれていた。その文字を見た時、一つの言葉が思い起こされた......。


「人柱......。ま、まさかな......」


このことは、自分の日記と心の中に記してそっとしておくことにした。これ以上関わりたくないし、それこそあの骨をいじくったら何をされるかわからない。工具で開けた穴も突貫で塞いで、手だけ合わせておいた。それが、俺なりのあの死体への弔いだと信じて。


 







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る