第4話 ミノスの竪琴

イノスの竪琴は小ぶりで精巧な細工が施されている。龍をかたどったデザインだ。

その竪琴には強いオーラがあり、優れたスピリチュアル能力を持つサウラに鼓動を感じさせるほどの強さだ。オーラは紫と白と代わる代わる変化しながら周りに生気を放っていた。

サウラは恭しく装身具の中から大きなスカーフを取り出し、竪琴に直接触れないように包んでイノスの前に持ってきた。

「旅の方、これは龍神の祭礼用の竪琴です。どこで手に入れられたのですか?わたくしたちの祖先であるクレタ島の覇王ミノスの宝物の一つです。」

イノスは驚いてサウラを見つめた。

「これは俺の生まれた村に伝わる祭礼の道具だ。村を出る時に託されたんだ。」

「ではあなたの村も龍神信仰だったのですね。もしすぐにお使いにならないのでしたら、わたくしにお貸しいただけませんか?竪琴を使った儀式をやり直してもう一度ご神託を受け取りたいのです。」

サウラは竪琴を見つけた驚きのあまり、ヴェールを被るのを忘れていた。プラチナブロンドの髪と澄んだ青い瞳が吸い込まれそうに感じるほど美しい。イノスはまじまじとサウラを見つめていた。気がついたサウラがヴェールを被ろうとすると、イノスの腕がそれを押しとどめた。

「え…?」

「そのまま…」

そういうと、そのまま二人は数分の間見つめあった。気がついた国王がサウラにヴェールを被るよう促し、言った。

「それでは竪琴を預かっている間、宮中で寛がれるといい。サウラ、すぐに神託を受け取る準備をするように。」

「かしこまりました。」


イノスは来賓用の広間に案内された。一角に用意されているソファで寛いでいると、ドアの外から会話が聞こえてきた。

「なぜ旅人を釈放したのだ、国王は!観光産業など大して金にもならんのだぞ!」

「しかし我々兵士は国王の命令に従わねばなりませんから。」

「残っている者はいないのか?!そいつが生贄だ!」

イノスは震撼し、そっとソファの陰に隠れて逃げるチャンスを待った。国王には権力があるが、目下の者の中には反発するものも多くいるのだなと思った。

「こいつらに捕まったら、自分が殺されてからの国王への事後報告になる。それは勘弁願いたいぞ。」

イノスはそう呟いて、ドアを見つめた。

すると、ドアの外が何か騒がしい。ガチャガチャと鍵を開ける音がして、出てきたのは、なんとミーアだった。

「イノス!これから龍神の本殿に出かけるよ!」

後ろにいた大臣と兵士はびしょ濡れになってミーアを睨みつけている。廊下の向こうは噴水になっているから、そこから先刻イノスを留めたように水の塊が飛んできたのだと容易に想像できた。相手が怯んでいる隙にと、イノスはミーアの後について広間を出た。



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ミノスの竪琴 岡本千夏(久礼千晶紀) @chiie

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