第3話 龍神の噴水
街の中心は広場になっていて、凝った造りの大きな噴水があった。ミーアが言う。
「この国の龍神は水の神様なんだ。水のある所なら、どこででもお参りできるんだよ。」
噴水の四隅に小さな祠があって、市民が思い思いに供物を置いたり、お参りしたりしている。イノスはこんなにしょっちゅう大勢でお参りされては龍神が疲れてたまったもんじゃないよなと不敬なことを思った。敬虔であることは良いことかもしれないけれど、ご利益を要求するのは違うとも思った。その区別がついているのかいないのか外から見ただけではわからない。イノスは自分には向いてない国だなと、路銀を手にしたら早々に立ち去ろうと決意した。
その時、ミーアが大きな声を出した。
「あれ…?あそこ旅館だからあとで案内しようと思ったのに。何があったのかな。」
兵士たちが旅館から旅人を連れ出している。イノスの首の後ろの髪が逆立った。これは危険を察知したサインだ。
「ミーア、ありがとよ!俺やっぱりこの国は素通りするわ。じゃあな、元気で!」
そういって逃げようとしたが、兵士の一人に見つかってしまった。
「あいつも旅行者だ!捕まえろ!」
集まってくる兵士たちの頭の上を街路樹につかまって飛び越えた。実に身軽だ。
「あばよ!」
そういって広場を後にしようとした時、噴水の水が龍の形をとってイノスの体に跳んできた。水が体に絡まり、地面に引きずり降ろされた。気がつくとイノスは噴水の前にびしょびしょになって座り込んでいた。
ミーアはすばしこくその場を離れていて、兵士たちはイノスの手首をロープで縛り、小突いて王宮に向かって歩かせた。
国王は旅人を王宮に集めるようにという指示を出したが、龍神のお告げのキーマンを探すためで、生贄にするつもりは毛頭なかった。しかし会議に出席した大臣の中に、生贄はドラゴナイトに関係のない旅行者から選べばいいという古い考えの者がいて、兵士たちはその大臣の指示に従って旅行者を弾圧しようとしたのである。
国王とサウラは狭い地下牢に集められた旅行者の様子を見て、自分たちの意図が兵士たちに伝わってないことを感じた。こんなことをしては以後旅行者がドラゴナイトに来なくなる。観光は国の大事な収入源なので、この扱いの噂が広まっただけで、国の基幹産業の一つが立ち行かなくなってしまうのだ。
国王は旅行者たちに無礼を心から詫び、一人一人に質問をして、キーマンを探した。終わったら広間で暫く休憩してもらい、軽食を提供した後釈放し、宿に戻ってもらうことにして、周りの者に指示を出した。
サウラは龍神の巫女頭であるため、通常は一般市民にその姿を見せることはなかったが、今回はその直観力が必要なため、ヴェールをつけて面通しに立ち会っている。そばにいた者たちが国王の指示により担当部署に出払ったため、最後に地下牢にいるのはイノス、サウラ、国王の3人と護衛兵だけとなった。
イノスは南の島の出身であるため、南国的な黒く波打つ髪と、アーモンド形の独特の瞳を持っている。サウラは心惹かれてしばらく様子のいいイノスを見つめていた。
国王が言った。
「手荒なことをして申し訳なかった。兵士たちによると、広場の噴水で不思議なことが起こったとか。この国の龍神と何か関係があるのか?我々は龍神を解放するキーマンを探しているのだ。」
イノスはそれには答えなかった。わからないことには答えられない。
「龍神のことは知らないよ。それより釈放してもらえるなら持っていかれた竪琴を返してほしい。俺は吟遊詩人だから、竪琴がないと商売が上がったりなんだよ。」
「なるほど。正直な若者だ。サウラ、荷物の中に竪琴があった気がするから、持ってきてあげなさい。」
「わかりました。」
サウラは旅人たちの荷物が置いてあった一角に行き、イノスの竪琴を見つけた。
「これは…!!!」
サウラは息を呑んだ。
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