海と陸と人
目が覚めると、そこは見覚えのある空が広がっていた。
どうやら僕と海は、その場にいた人々によって無事に救出されたらしい。
これは後から分かったことなのだが
どうやら彼女の体には水中に潜むウイルスに対する抗体ができていたそうで
僕よりも早く目を覚ましていたそうだ。
「これでこれからは海中に言っても問題ありませんね」なんて嬉しそうにしていた。
あろうことか海は、自分を襲った活動家を僕ら科学者に引き渡した。
なにもなかったのだからこれいいのだと、彼女は言った。
あの時彼女は早々に砂浜に引き上げられ、科学者たちは僕を拠点に運ぼうとした。
そして地上に住む人々はそれを拒み、彼女同様僕のことも砂浜へ引き上げた。
僕を含めた科学者は、その日決して超えることのなかった線を超えた。
決して変わることのない世界で、その出来事は大きな出来事のように感じた。
「――ねぇ陸さん」
「なんですか」
「この海の中は、とても綺麗でしたよ」
「苦しくて、怖かったでしょう」
「えぇ、なので次は陸さんが連れて行ってください」
彼女の手を引き、海中に伸びたホースを伝って水中に潜る。
ホースの長さは約300メートル。
それが酸素を運ぶ距離、それが僕らの活動限界。
その不自由な制限の中で、僕は本当の自由を手に入れた。
海深300メートル 天野 羊 @skysheep_book
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