第44話 あの家の、今

岡山市北区津島某所に今もあるあの家。

あの頃と同じように、今もその地にある。

築後60年は優に超えたのではなかろうか。

かつて昭和中期から後期にかけて、

典型的な核家族が住んでいた、家。


老朽化したからであろうか。

門に入った先の屋根は撤去されている。

1階の南側の窓の中には、段ボールが多数。

2階のベランダには、布団が干されている。

今日は、晴天の日。それも、無理はないだろう。

隣の家があるから、奥の方の様子はわからない。

玄関の横には、ちょっとした庭もあったはずだ。

とにもかくにも、人が住んでいることは明白。

表札を見ると、ラベルテープで表示が。

その住所と世帯主の氏名。その名に覚えはあった。

北隣の家に住んでいた3人兄弟のうちの一人。


あの頃住んでいた人たちは、今から30年前、

隣に住む母親の母親の死をきっかけに、

この地を去っていった。

新しい電話番号さえも、人に通知させないようにして。

何とか伝手をつないで聞き出して、電話をかけてみた。


(かつての)隣家とは口を利きたくないからな。


今や結婚して一家のあるじとなった長兄の弁。

母親の弁もそうだった。

彼女の親族たちとの話だけに、おそらくは、

彼女とその弟の確執が両親の死とともに爆発したのであろう。


その後かの作家氏は、元の住人の新居に電話こそしたが、

その地を訪れてはいない。

ときに電話や年賀状のやり取りはあったが、

その家の親父さんの逝去を境に、それも止んだ。


2024年。

北隣にいたおじいさんが亡くなられてちょうど40年目。

もう、あの頃に戻ることはできない。


北隣のお宅のほうも行ってみた。

いまだに、昔どおりの表札が残っていた。

無論、人の住んでいる気配はした。

軽自動車も2台あった。

それだけを見届け、作家氏は帰途に就いた。


2024年5月4日、朝8時30分過ぎの話でした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る