第43話 やんちゃ少年の行く末

今や作家となった彼。

ときには、小学校や中学校の同級生に会うこともある。

移転前の小学校、もしくは移転後の中学校のかつての友人たちに。


彼は、自由の森にいた。

その自由の森にいた同級生らの消息を、彼は度々聞かれた。

その中に、いささかやんちゃな少年がいた。


彼の行く末、中学校の同級生のある人物に関しては、

高校を中退したことまでは、知っていた。

もっとも、その後のことは知らないとの由。


かの元入所児童の少年は、

その十数年後、齢にして20代半ばの頃、

2度にわたって、なんと行き倒れになった。


一度は、縁もゆかりもない兵庫県の北部で。

もう一度は、この岡山の自由の森を管轄する警察署管内で。

彼は、かつて少しばかり縁のあった児童指導員に頼ろうとした。

しかし、それはかなわぬこととなった。

彼の行方は、その後何もわからない。


移転前の小学校の同級生の現映画監督も、彼のことを覚えていた。

自由の森にいる年少の子が馬鹿にされたのを聞いて、彼は、

その馬鹿にした相手をボコボコにしたというではないか。

そういえば、そのくらいのことがあった記憶もあるけど、

かの作家氏のほうは、正確には覚えていなかった。

ただ、映画監督氏の話を、やっぱりそうだったかという心持で聞いた。


無論、映画監督氏は作家氏以外の自由の森関係者の消息は知らない。

作家氏は尋ねられた。かの人物はどうしているのかと。


しょうがない。またあの話だな。

そう思うまでもなく、

作家氏はいつかの中学の同窓会のときより一つ丁寧に、

彼のその後の消息を語った。

あの事件をモデルにした小説を手渡して。


その時彼は、ふと思った。

こうして彼の消息を語るのも、私に授けられた使命なのか。

と、ね。

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