第42話 この地で思ったこと

ある入所児童の同級生がやって来た。

彼はその地に入り、クラスメイトと会った。

彼は、その時感じたという。


ここは、居心地が悪い場所というわけではない。

しかし、いつまでもいていい場所とは思えない。


そういう趣旨のことを、かつての同級生に述べた。

述べたのは、今や映画監督として名を成した人物。

それを聞いたのは、今や作家として活動する人物。


彼らは今から四十数年前、確かに同級生だった。

かたや、自由の森のある学区に住む公務員の息子。

かたや、自由の森に入所を余儀なくされていた児童。

その後彼らは、40年以上会っていなかったのだ。

しかし、縁あってある場所で再会したのである。


何が驚くべきことかと言われれば、このことか。

自由の森の外側と内側にいた同級生の少年たちが、

その地についてまったく同じ感想を抱いていたこと。

ナニユエ、そんなことが起きていたのであろうか。

今さらながら、不思議で不思議で、たまらない。


さすれば、そこの意味するところやいかに?

かの映画監督同様、入所児童だった作家もまた、

その地に長くいられる人間ではなかったのである。

彼が入所当時からその地に抱いていた違和感も、

その後彼がその地に激怒していたその内容も。


要するに、彼はその地にいさせてはいけない人間だったってこと!

そのことに、外からの目で気づかされた40年後。

あの違和感も激怒の内容も、その地に浸る人間には気づかぬもの。

彼だからこそ、気付いたことなのであった。


そんな彼をできるだけ取込もうとした当時の自由の森の関係者は、

今も、彼の怒りを叩きつける対象としてこのサイバー岩に刻まれている。

彼(彼女)らの過去の言動は、かくして歴史に残されるのである。


嗚呼覆水は、盆に返らず。

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